ビジュアル歯科臨床解剖
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それを共有することで,だれでもより安全に手術ができるようになり,先生も患者もみんな幸せになればいい,そんな思いだった.「気をつけましょう」や「経験したらわかる」の前に知っておかなければいけない「スタンダード」の確立である.スタンダードの知識を得ることで「なんとなく見えないから怖い」「触りたくない」というアレルギーのようなものも少しは和らぐのではないだろうかと期待してのことでもあった. 話は日常の歯科臨床に変わるが,歯科医師は当然のことながら多くの時間を「口腔内」の診療に費やす「口腔のエキスパート」である.科学的根拠をもとに診査・診断・治療を行っていく「科学者」であるとともに,歯の切削や軟組織の切開ではコンマ数ミリの深さの違いが結果を左右する「匠」の世界でもある.そんな科学者であり匠でもある歯科医師(読者の皆さん)に,ほんのひとさじの「解剖の科学」というスパイスを加えることで,少しでも目の前の患者さんの治療に役立つのであれば,臨床解剖を志すものとして冥利に尽きる. 最後になるが,多くの歯科医師が「解剖」という言葉を聞くと,「口腔外」からの解剖の写真やイラストをイメージすると思う.表情筋や顔面動脈などの大きな構造物,そして正中矢状断で見る舌や上顎洞.この観察方法は非常に重要かつ奥深いものでさまざまな情報を得ることができる.解剖の教育や研究に欠かせないのも事実である.しかし,この観察方法で見えるものは,実際の患者の口腔内と違うことがほとんどである.歯科医師にとって,とくに重要な「患者の口腔内と同じ角度から見る解剖」を学ぶ機会が,実は国内外を問わずこの世の中にほとんど存在しなかったのである.そこで本書ではさまざまな写真やイラストを使い,まずは口腔内の解剖のイメージをもってもらうことから始めたいと思う.実際の患者を想定した,生体での舌神経のダイナミックな動き,口腔内から見る後上歯槽動脈など,本書を読むことで,新しいイメージが湧いてくるものと確信している. さあ,解剖を科学しよう.2020年2月吉日岩永 譲

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