歯内療法のパラダイムシフト
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51別冊 the Quintessence 「歯内療法のパラダイムシフト」MTAが変えた歯髄保存の限界1009080706050403020100919368.577.69795518586866993水酸化カルシウムMTA①Qudeimat, et al2007②Hilton TJ, et al2013③Chailertvanitkul P, et al2014④Kundzina, et al2016⑤Brizuela C, et al2017⑥Suhag et al2019成功率(%)水酸化カルシウム vs MTA(ランダム化比較試験のみ)図1 直接覆髄材として水酸化カルシウムとMTAを比較したRCTの結果.RCTが6つあれば,研究結果のデータをまとめてメタアナリシスを行い,統計的にどちらが優れているかを調べることができる.筆者の計算ではオッズ比0.52(95%信頼区間0.35,0.75),NNT*=9(95%信頼区間6,21)であり,直接覆髄材としての第一選択はMTAになる(*NNT:あるエンドポイントに到達する患者を1人減らすために,何人の患者の治療を必要とするかを表したものであり,ここでは水酸化カルシウムを使用する場合と比較し,何症例MTAを使えば1つの歯髄壊死を減らせるかを表しており,臨床的にその効果を実感しやすい).しかし,出版バイアスの検証も必要である.また,これまでの個々の研究を見ると,水酸化カルシウムの種類,術式,患者の年齢や研究方法など多くの相違点があることから,個々の研究をよく吟味することでより臨床に役立つ情報にたどり着ける可能性がある.とくに外的妥当性(患者の年齢,術者の技術,最終修復の精度等)について考察すると興味深いことがわかる.筆者の臨床環境では,水酸化カルシウムとMTAで臨床成績に差がないと感じる.マイクロスコープを使い,テクニカルエラーを最小限にしていることが理由のひとつだろう. 直接覆髄材としてMTAと水酸化カルシウムのどちらが優れているかを調べるもっとも適切な研究デザインは,ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial:以下,RCTと略)である.なぜなら,コホート研究や後ろ向き研究など他の研究デザインの場合,直接覆髄材の違い以外の因子(交絡因子)が試験群と対照群のどちらかに偏る可能性があり,さらに未知の交絡因子を調整することが不可能だからである.現在のところMTAと水酸化カルシウムを比較したRCTは6つあり,その内訳は両者間に統計的有意差がないという報告が4つ2~5(図1 ①, ②, ③, ⑤),統計的有意差があるという報告が2つとなっている6,7(図1 ④, ⑥).これらの結果を見ると,意外に大きな差はないと感じる一方で,統計的有意差を認める報告では両者の成功率に大きな違いを認める.それに加えて,水酸化カルシウムのほうが優れていると結論づけられている報告はないことから,MTAを直接覆髄材の第一選択としてよいだろう. 両者の成功率に生じた統計的有意差のもっとも大きな原因は,テクニックセンシティビティーの違いであると考えられる.先述のRCTのひとつである,Hiltonらの報告2に「ある術者の水酸化カルシウム群(ダイカル)の成功率が非常に低く,全体の失敗の31%を占めていた」とあり,水酸化カルシウムの扱いの難しさが結果に影響を及ぼしている可能性が示唆される.水酸化カルシウムの代表的な製品には硬化するタイプであるダイカル(デンツプライシロナ)やライフ(Kerr)があるが,その扱いの難しさに苦労した術者は多いだろう.ちなみに,筆者は長年水酸化カルシウムを用いた直接覆髄を行っているが,MTAの臨床成績と差があるように感じず,「両者の成功率に差がある」と報告されているRCTで示され1.どうパラダイムシフトが起きたか?

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