口腔外科ハンドマニュアル’20
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SPECIAL FEATURE特 集口腔がん 早期発見・早期対応のために やるべきこと・できること 口腔粘膜は組織学的に扁平上皮であることから,口腔がんの約90%は扁平上皮癌である.そのほかに唾液腺がん,悪性黒色腫,悪性リンパ腫,肉腫,転移性がんなどが発生する.口腔は直接見て触れることができるため,比較的容易に異常を発見しやすい部位ではあるが,口腔がんの早期発見は必ずしも満足のいく結果が得られているとはいえない.その理由として,口腔がんは,病変が進行するまで自覚症状に乏しいことがあり,また,日常の臨床でよく遭遇する歯周病や口内炎などとの鑑別が困難なことが多いためである.よって,歯周病と診断されスケーリングや抜歯が行われたり,口内炎と診断されレーザー治療やステロイド軟膏の長期投与が行われたのち,がんが進行した状態で発見されるケースも少なくない. 口腔がんおよび口腔粘膜疾患は,粘膜上皮あるいは粘膜固有層の病的変化によって,色調および形態が変化し,さまざまな臨床所見を呈する.早期口腔がんの臨床所見は,粘膜の白色変化や紅色変化が主体となり,進行にともない肉眼的にびらん,潰瘍,肉芽,白斑,乳頭,腫瘤など,さまざまな病態を呈する.よって早期口腔がんの診断には,他の粘膜疾患との鑑別をはじめ,早期口腔がんが示す臨床所見を十分に把握することが重要である. 本稿では,口腔がんの早期発見のために,診断のポイントとなる病態,とくに色調と形態について提示する.見逃してはいけない 早期口腔がんの臨床所見① 色調 正常な口腔粘膜は,上皮の角化層が薄く粘膜固有層にある毛細血管が透けて見えるためピンク色を呈している.口腔がんに注意すべき色調は,白色,赤色,黒色の3つである.[1]白色病変 粘膜上皮の肥厚により粘膜は白色として観察される.角化亢進による角質層の肥厚による過角化症,角質層に細胞核がみられる不完全な角化を認める錯角化症,および粘膜上皮の棘細胞層が肥厚した有棘層肥厚の3つの病態に分けられる.肉眼的に過角化症は,錯角化症よりも色調が厚い白斑を呈する.白津島文彦/原田浩之東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科顎口腔外科学分野 連絡先:〒113‐8549 東京都文京区湯島1‐5‐45Tsushima Fumihiko, Harada HiroyukiDepartment of Oral and Maxillofacial Surgery, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Tokyo Medical and Dental Universityaddress:1-5-45 Yushima, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8549こんな病変は危ない!  前がん病変(口腔潜在的悪性疾患)の 症状別鑑別と対応These Kinds of Lesions are Critical. Symptom Differentiation and Approaches for Oral Precancerous Lesions(Oral Potentially Malignant Disorders)23

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