口腔外科ハンドマニュアル’20
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VISUAL SEMINAR : BASIC DENTAL AND ORAL SURGERYChapter1-1Section1ビギナー&ミドルのための必修 ベーシックテクニックChapter1 口腔外科ビジュアルセミナー 糖尿病は,インスリンの分泌不全もしくはインスリン抵抗性により高血糖を呈する代謝性の疾患であるが,この高血糖により大小の血管障害および免疫機能障害による創傷治癒の不全が報告されている1.本稿では,糖尿病患者にインプラント治療を行うにあたっての留意点を述べる.インプラント治療にあたっての血糖コントロールの目安について 糖尿病患者において,インプラント治療を行うにあたっての具体的な血糖コントロールの目標値は設定されていない.しかしながら,経皮冠動脈インターベンションを行った糖尿病患者に対する血糖コントロールの影響を評価した後ろ向きコホート研究では,HbA1cが6.9%未満の患者と比べて,6.9%以上の患者では主要心血管イベントの発生が有意に高いという結果であった2.非糖尿病患者と比べて,HbA1cが6.5%以上の糖尿病患者では心臓手術後の合併症や感染症の発症率が有意に高いという報告もされている3.また,日本糖尿病学会での血糖コントロールの目標値4においても,血糖正常化をめざすための目標が6.0%未満,合併症予防のための目標が7.0%未満,治療強化が困難な場合の目標が8.0%未満(表1)であるということからも,7.0%未満であることが望ましいと考えられる.抗菌薬の予防投与の必要性について 1,400人以上を対象とした日本人における冠動脈バイパス手術後の心血管イベントや感染症の発症率を調査した後ろ向きコホート研究では,術後心血管イベントは糖尿病患者と非糖尿病患者を比較して有意な差は認められなかったが,感染症の発症率は糖尿病患者のほうが有意に高いと報告された5.しかしながら,米国での結腸切除手術を受けた糖尿病患者を対象に術後感染のリスク因子を調べた後ろ向きコホート研究では,術前よりも術後の血糖コントロール,および術後24時間以内の抗菌薬投与が術後感染予防に重要なことが報告されている6.以上のことから,糖尿病患者での感染リスクは非糖尿病患者に比べて高く,血糖コントロールが不良な場合には抗菌薬の予防的投与も含め,より徹底した抗菌薬和泉雄一1,2/片桐さやか1/水谷幸嗣11 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科歯周病学分野 連絡先:〒113‐8549 東京都文京区湯島1‐5‐452 一般財団法人脳神経疾患研究所附属総合南東北病院オーラルケア・ペリオセンター 連絡先:〒963‐8563 福島県郡山市八山田7‐115Izumi Yuichi1,2, Katagiri Sayaka1, Mizutani Koji11 Department of Periodontology, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Tokyo Medical and Dental Universityaddress:1-5-45 Yushima, Bunkyo-ku, Tokyo 113-85492 Oral Care Perio Center, Southern Tohoku General Hospital address:7-115 Yatsuyamada, Koriyama-shi, Fukushima 963-8563糖尿病患者とインプラントDental Implant Treatment for Diabetic Patients51

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