子どもたちが上手に噛める・食べられる・呼吸できるようになる本
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 朝の全体朝礼が終わり,矯正・小児ひまわり歯科(以下,当院)の診療は始まります.今日も母親に手を引かれて,2歳の女の子がキョロキョロしながら診療室に入ってきました.案内されたユニット横にまず母親が座り,女の子はその膝の上で母親にべったりくっついてこちらの様子を見ています. 2歳児の健診は,基本的にユニットは使わず,歯科衛生士の膝の上に子どもの頭を持ってきて行います.母親の対面に座った歯科衛生士は,問診票の確認をしながら母親にしがみついている女の子に話しかけます.そして,様子を見ながら膝の上にゴロンと寝てもらうタイミングを見計らっています.少し場所に慣れてきた女の子は,そのうち歯科衛生士の誘導で母親の存在を確認しながら,ゴロンと仰向けになり「あーん」と大きく口を開けて私たちを受け入れてくれます.Knee to Knee(膝と膝をつき合わせた)の姿勢での健診です. 口の中は真っ白な乳歯がきれいに並んでいてカリ1Chapter2歳時の食習慣が将来を左右する1エスはなさそうです.しかし,その後「あむっ」と噛んでもらうと,下顎前歯が完全に隠れてしまう過蓋咬合になっています.つまり,上下の乳前歯が噛み合っていないということですから,日常的に食べ物を前歯でかじりとることができていないということがわかります.おそらくこの子は,いつも前歯を使わない食事をしているのでしょう.この時期に前歯を使わない食事の習慣がついてしまうと,前歯部の歯根膜刺激がほとんどないまま成長することになり,歯槽骨も育たず,叢生または発育空隙のない過蓋咬合の乳歯列ができあがってしまうのです.また,過蓋咬合では下顎の発育不全も疑われ,それにより口唇を閉じることも難しい場合が多く,口呼吸になってしまいます.さらにこの前歯を使わない食事の習慣が続くと,やがて迎える5歳ぐらいから始まる永久歯列への交換に引き継がれる可能性があり,叢生と過蓋咬合で噛めない,機能的でない永久歯列の口ができあがってしまうのです. 子どもたちが,健康に育ってくれるように,上手に「噛める・食べられる・呼吸できる」ようになるために,私たちができることを改めて考えてみましょう. 私たちは,歯と口を扱う専門家です.歯と口の疾私たちは歯と口を扱う専門家2患を予防または治療する私たちが目指すのは,まさに子どもたちの健康であり,「噛める・食べられる・呼吸できる」ようにすることです.これこそまさに,子どもたちが健康に生活するための前提条件だと考えています.いま,子どもたちの口腔は?健康は?12

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