臨床家のための矯正 YEARBOOK 2020
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ab図10a, b 保定開始3年後の顔面写真および口腔内写真.115臨床家のための矯正YEARBOOK 2020カボデンタルシステムズ株式会社 オームコジャパンていた.治療ゴールと比較すると,下顎歯列の移動はおおむね計画通りに達成されたものの,上顎歯列の近心移動や上顎切歯のルートラビアルトルク,および下顎骨の時計まわり回転は不足していた(図9).これは,下顎歯列は強固で安定した固定源であるアンカープレートによって予知的にコントロールされたのに対して,上顎歯列は顎間ゴムによるコントロールのみに留めたことが固定値の不足につながったものと推察された.しかし,保定開始後3年時においてもきわめて安定した咬合が得られていたことから,治療結果はおおむね妥当であると判断した.考察・まとめ 現代の矯正治療では,TADsという強固な固定源の発達によって歯牙移動の自由度が上がったことから,CBCTを用いることによって全顎的な歯根と皮質骨の位置関係や歯槽骨の状態を3次元的に把握し,計画した歯牙の移動方向や移動量を正確に診断することが,治療の安全性や予知性を高めるために,より一層重要となった. 筆者は,上・下顎大臼歯の遠心移動では通常3~4mmの移動量を見込めるものとして治療ゴールを設定している5,6.しかし,個々の症例によって智歯の有無や萌出・埋伏状態が違い,歯根や顎骨の解剖学的形態のバリエーションも大きい.したがって,とくに下顎大臼歯の遠心移動では,CBCT上で第二大臼歯の歯根や根尖と皮質骨との距離を計測し,歯列遠心移動の後方限界を見極めることが,治療ゴールの未達成や治療期間の延長,さらには歯根と皮質骨との干渉によって起こる歯根吸収や皮質骨外への歯根逸脱などのリスクを避けるために必須である7. 本症例では,初診検査時のCBCTで下顎第二大臼歯遠心部に十分なスペースが存在することを確認し(図3),装置撤去時においても第二大臼歯の歯根が皮質骨に干渉することなく海綿骨内に収まってい

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