一般臨床家、口腔外科医のための口腔外科ハンドマニュアル’21
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難抜歯への対応VISUAL SEMINAR : BASIC DENTAL AND ORAL SURGERYChapter1-1速やかに粘膜骨膜弁を挙上し,明視下,直視下に歯の分割,骨削除などを行い,安全に短時間で終了する.そのほうが鉗子とヘーベルのみで延々と抜歯を続けるよりもはるかに侵襲が小さい.1)粘膜骨膜弁の挙上 歯肉縁下残根の根面,歯根膜腔,歯槽骨を直視するために必要になることがある.2)歯の分割,削除 「歯を小さく分割するとつかみにくくなり,またヘーベルもかかりにくくなるから,大きいままで抜け」という考え方があるが,筆者は逆に分割して小さくすべきと考える.必要であれば歯根を分割して小さくすることにより,①アンダーカット(歯根の湾曲,肥大,開大・離開など)の解消,②歯根と骨の境界(=ヘーベルの挿入部)の明示,③歯根の癒着面積の減少,④歯を動揺,移動させるためのスペースの確保,などの利点がある.分割したあとに小さな分割片が残遺しても,ルートチップピックや長めのバー等を用いて,後述するようなアプローチを加えれば容易に抜歯することが可能である.歯に加える3つのグルーブ(図8) 難抜歯の場合には,ヘーベルやクライヤーを効果的に作用させるために3つのグルーブを加えると良い.1つめは歯根周囲のグルーブ(図8a)で,ヘーベルを確実に挿入し作用させるために有用で,また骨性癒着部の削去の効果もある.2つめは歯根を分割するためのグルーブ(図8b)で,複根歯の場合はもちろんのこと,単根歯でも分割してよい.3つめは歯根に形成するグルーブ(図8c,d)で,ヘーベルやクライヤーを効果的に用いることが可能となる.3)骨の削除 必要に応じて,歯根周囲,歯頸部から根尖までの頬側歯槽骨,根尖部相当部,アンダーカット部等の骨を最小限の範囲で削除する(骨削除法の詳細は後述).[3]難抜歯に対する処置 術前診査により鉗子やヘーベルを使う前に補助的外科処置(図7)が必要と判断したときは,ためらわずにその処置を加える.また,2分間程度(実は結構長い)同じ操作を続けて状況に進展がなければ,その操作を延々と続けず,後述する次の手(補助的外科処置)を次々と繰り出していくことが時間短縮のカギである.どこで次の処置に移るかの判断が遅れれば,所用時間が延びる.図8a〜d 難抜歯に有効な3つのグルーブ.a:歯質と骨の境目(=歯根膜腔).歯根周囲のグルーブ形成(ヘーベルの作用部位の確保,骨性癒着の削除).b:歯根分割.歯を分割するグルーブ(複根歯の場合).単根歯でも効果的.c,d:歯質内.歯質に形成するグルーブ(ヘーベルやクライヤーの作用点の確保).acdb41

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