鈴木哲也のよい義歯だめな義歯2
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CHAPTER1CHAPTER11-1力の大きさから咬合採得の重要性を理解する印象採得と咬合採得ではどちらが義歯の良し悪しに、より深くかかわるだろうか。義歯を苦手とする歯科医師ほど印象の形にとらわれる者が多いが、臨床経験を重ねていくうちに本当に重要なのは咬合であることに気づく。これは、義歯に加わる力の大きさを考える1と、納得がいく。印象面から得られる力を「維持力」と呼び、咬合面に加わる力を「咬合力」と呼ぶ。一般の総義歯の維持力は下顎では0.5~1.0kgf程度であるとされている。たとえば特別な印象方法を開発し、維持力が2倍になったと自慢しても、それはせいぜい2kgfにすぎない。総義歯よりもずっと維持力が強いコーヌスクローネ義歯でも、それを推奨したKorber2は適正な内外冠の維持力は支台歯1本あたり平均700gf程度で、義歯の支台歯全体の合計では2~3kgfが望ましいと述べている3。一方、総義歯の咬合力は少なくとも5~15kgfはある。そう考えると、維持力にどれほどこだわっても、咬合力と比べたら、その差は歴然である(図1-1)。たとえ名人の印象採得により上下顎、単独ではかなりの維持力が獲得されたとしても、咬合を誤れば噛むたびに義歯に横揺れの力が働き、脱離や痛みを生じる。一方、ほどほどの印象採得でも適切な咬合が付与されていれば、噛むたびに義歯を顎堤に押さえつけるように咬合力が働くため、義歯は予想以上に安定し、良く噛めるものである(図1-2)。“ひも状義歯”でも、「何年もの間、ずっとよく噛めた」と話される患者がいる一方で、維持力が大きすぎると「つねに締めつけられているようで、義歯を入れているのが辛い」と訴える患者もいる。印象採得にもほどほどの技術力は必要であるが、義歯の良し悪しを決める主体は咬合であり、適切な咬合採得のもとに、咀嚼時の咬合力を適確にコントロールすることが義歯の安定にはもっとも重要である1と考える。そのためには、天然歯の咬合とは異なった無歯顎者特有の咬合を理解し、付与する必要がある。24義歯の安定を決めるのは咬合である1「義歯の良し悪しを決める主体は咬合である」・義歯の安定には、適切な咬合採得のもと咀嚼時の咬合力を的確にコントロールすることが最重要。・そのためには、無歯顎者特有の咬合の理解と付与が必要。ルール1

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