鈴木哲也のよい義歯だめな義歯2
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CHAPTER1CHAPTER11-1両側性平衡咬合の必要性への疑問両側性平衡咬合とは、偏心運動時に作業側と平衡側の両方に咬合接触を与え義歯の安定を図るという考え方で、米国歯科補綴用語集(GPT-9)1ではこれを「Balanced Occlusion」と称する。両側で義歯を押さえてくれるので、たしかに空口時においては理にかなった咬合様式である2(図1-1)。しかし、咀嚼時を考えると、両側性平衡咬合を与えても食塊が咀嚼側(作業側)に介在すれば、その厚みだけ非咀嚼側(平衡側)の上下咬合面間が離開する(図1-2)。そのため、せっかく時間をかけて咬合器上で両側性平衡咬合を付与しても、義歯の安定がとくに必要とされる咀嚼時には意味をなさないとの批判がある。そのことから、咀嚼時を考えれば、側方咬合位において片側性平衡咬合すなわち「作業側人工歯の頬・舌側咬頭のみの咬合接触により力学的な平衡状態を作りだし、義歯の転覆を防止することを意図した咬合様式3」こそ、重視すべきとの意見が多かった。そこで考えられたのが歯槽頂間線法則であったが、歯槽頂間線法則には問題4も多く、適応できる症例は限られる。84両側性平衡咬合(Balanced Occlusion)は必要か1作業側平衡側図1-1 両側性平衡咬合(空口時)。側方運動時に作業側、平衡側の両側に咬合接触を与え、義歯の安定を図る。(林図 2より引用・改変)図1-2 咀嚼時の咬合接触。両側性平衡咬合を与えても、食塊が咀嚼側(作業側)に介在すれば、その厚みだけ非咀嚼側(平衡側)の上下顎咬合面間が離開する(矢印)。そのため、咀嚼時は片側性平衡咬合が重要と考えられてきた。(林図 2より引用・改変)咬頭嵌合位(中心咬合位)作業側平衡側側方咬合位

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