鈴木哲也のよい義歯だめな義歯2
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現代の総義歯に付与すべき咬合様式1-2両側性平衡咬合の必要性に対する疑問への答え以上のように疑問が多かった咀嚼時における両側性平衡咬合の必要性については、東京医科歯科大学の小林ら5~9の研究グループによる研究が明解な答えを出している。小林らは、総義歯の人工歯咬合面をさまざまな形態を付与したメタルオクルーザルに取り替え、義歯にテレメーター装置を組み込み、咀嚼時の咬合接触をワイヤレスで計測した6~9(図1-3)。その結果、両側性平衡咬合を付与した場合、咀嚼時には食塊の厚さだけ離開しているはずの非咀嚼側(平衡側)のほうが、咀嚼側(作業側)よりも咬合接触の頻度が高く、その開始も早いことを見いだした5(図1-4)。有歯顎では考え難い咀嚼時の非咀嚼側での咬合接触は、被圧縮性に富む粘膜上で機能する総義歯の特殊性によるもので、食塊の存在する咀嚼側では義歯の若干の沈下と非咀嚼側での浮き上がりにより起こる(図1-5、6)。それら咀嚼時の咬合接触の順番は、非咀嚼側の第二大臼歯から始まり、第一大臼歯、小臼歯と進み、最後に咀嚼側の第一大臼歯という順であった6(図1-7)。これは沈下ばかりでなく、食塊を中心に義歯が回転する様子をも示すものである。また、渡邊7は咀嚼時の咬合力を計測し、咀嚼初期には咀嚼側の値が非咀嚼側より大きいが、咀嚼の85図1-4 両側性平衡咬合を付与した場合、咀嚼時に咀嚼側より早く、非咀嚼側でリズミカルな咬合接触が得られた(矢印)。図1-3 テレメーター装置を組み込んだ実験義歯。人工歯咬合面をさまざまな形態のメタルオクルーザルに取り替え、咀嚼時の咬合接触をワイヤレスで計測。(写真提供:渡邊竜登美氏)

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