日本歯内療法学会がすべての歯科医師に贈る最新トレンド
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1234東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科口腔機能再構築学講座歯髄生物学分野32 ニッケルチタン製ロータリーファイル(NiTiファイル)は,湾曲根管を確実かつ効率的に形成することが期待できる器具として普及が進んでいるが,根管内破折のリスクは完全には解決されていない.しかし近年では,ファイル自体の材質,形状や使用手順,さらには根管形成用モーターの改良などの技術革新により,破折抵抗性の向上が着実に図られつつある1, 2.本稿ではこれらの取り組みを概観し,破折リスクが少なく安全な根管形成を行うための話題を提供したい. NiTiファイルが破折するメカニズムは,ねじり破折,回転疲労破折の2種に大別して考えることができる(図1)3. ねじり破折は,ファイルが根管壁に食い込んだ状態で回転力が加わった場合に合金の弾性限界を超えるねじりせん断応力が発生し,いわば「ねじ切れる」現象である.これに対して回転疲労破折では,根管湾曲部でファイルを回転させた際,外湾側での伸び,内湾側での縮みが繰り返され,ファイルに曲げ荷重が周期的に加わることから金属疲労が蓄積し,破折に至る. クラウンダウン法による形成やトルクリミット機構付きモーターは1990年代に定着したが,これらは主として切削中のトルクの低減によるねじり破折への対応と理解できる.回転疲労破折への対応は遅れてスタートしたが,2000年代中頃より後述のように,NiTi合金の熱処理,あるいは往復回転運動での切削の有効性が見出され,大きく進展した. 一般的なNiTi合金は,体温付近でオーステナイト相と呼ばれる結晶構造を示し,一定以上の外力が加わるとマルテンサイト相への結晶構造の変化(相変態)が可逆的に生じる.マルテンサイト相は柔軟でわずかな外力で変形するが,この力を取り除くと元のオーステナイト相に復帰し形状が復元する4.これが超弾性と呼ばれる性質で,従来のNiTiファイルの特徴となっている(図2). 一方,NiTi合金の相変態は温度にも依存し,オーステナイト相が高温相,マルテンサイト相が低温相に相当する.NiTi合金が低温度環境でマルテンサイト相が優位な状態にある場合,外力を加えると変形してその形状を維持するが,加熱するとオーステナイト相に変態して元の形状に戻る4.これが形状記憶効果である(図3). NiTi合金にある種の熱処理を施すと,相変態する温度が変化し,室温・体温付近でマルテンサイト相やR相(二相の中間相)の割合が高まり柔軟性が向上する4.近年ではこの性質を利用して,熱処理合金製のNiTiファイルが続々と開発されており,今や主流とも位置づけられる(図4).各メーカーが独自の熱処理の有効性を謳っているが,処理法の詳細は公表されていない.室温から体温付近でマルテンサイト相の割合が高い製品は形状記憶効果を備えており,プレカーブの付与が可能である(図5). 熱処理合金製のNiTiファイルは,従来型合金製器具と比較して柔軟で回転疲労破折に対する抵抗性も大きく向上している4(図6).一方,ねじり破折に対する抵抗性向上は顕著といえず5,適切なトルクコントロールなど,過大なねじり応力の発生を避ける形での使用に留意したい. NiTiファイルでは開発当初より連続正回転が採用されており,ねじり破折を防止するためトルクリミット機構を装備した根管形成用モーターが普及している. 一方,近年では正逆往復回転が可能なモーターが開発されており,応力解除の繰り返しによるねじり破折のリ別冊the Quintessence  日本歯内療法学会がすべての歯科医師に贈る最新トレンドPart 1-2興地隆史緒言NiTiファイルの破折メカニズムNiTi合金の熱処理往復回転運動による切削 ニッケルチタン製ロータリーファイルによる根管形成の進化―破折抵抗性向上への取り組み―

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