日本歯内療法学会がすべての歯科医師に贈る最新トレンド
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12東京都開業 吉松歯科医院120 歯科領域ではラバーダム防湿こそ,温故知新であると考えている.ラバーダム防湿こそ過去において先人が行ってきたことを正しく理解して,現在と未来への架け橋になるものである. ラバーダム防湿は,米国ニューヨーク州の開業医,Dr.Sanford C. Barnum により1864年に金箔充填のために考案されたものである.考案されたものである.金箔充填は,接着剤がなくても,温められた金箔と金箔が金属のイオン反応により接合するという特性を利用して行われている.しかし湿気は金箔どうしの接合を阻害する.そのためにラバーダム防湿が生まれ,呼気の湿度の影響を排除して金箔充填を行うことが始まりである. う蝕や歯髄ならびに根尖性歯周組織の疾患が,口腔内細菌が原因であることは,歯科医師ならば誰もが知ることである.また,ヒトの口腔内が限りなく湿度100%に近い環境というのは,自身の口の中が唾液で潤っていたならば簡単に理解できることだと思う.湿度や細菌は肉眼で観ることができない.細菌は染色した後に光学顕微鏡を使えば可視化できるが,歯科臨床の場で簡単に観ることは不可能である.湿度に関しても照明を変えるとか特殊なことをしない限り可視化することができない. せっかく感染部をきれいに除去して清潔にしたとしても一度唾液に触れると,それはまた汚染されてしまう.唾液に汚染される心配や湿度による接着による影響も防ぐことができる唯一の方法が,今から約150年前に考案されたラバーダム防湿であると筆者は考えている.  世界のトップクリニシャンたちは,“No Rubber Dam, No Endo” というのがコンセンサスである(図1). ラバーダム防湿の第一の目的は,清潔でドライな治療環境を作ることである.可及的な無菌的処置を徹底する  ことが根管治療のみならず,修復や外科処置の大原則である. ラバーダムを使用することはもはや“Standard of Care”であり,治療器具や薬剤,根管洗浄液の誤飲事故などから患者のみならず歯科医師をも保護するものであり,治療の成功率,術後疼痛に大きく影響する.また現在は with Corona 時代になり,ラバーダム防湿の必要性がより一層求められている. ラバーダム防湿の臨床上の利点としては,①無菌的な手術野の確保,②モイスチャーコントロール(絶対湿度〔湿潤状態〕のコントロール),③頬や歯肉の圧排,④患者は小さな器具や金属片などから保護される,⑤作業領域での視界性の向上,⑥ミラーが曇らない,⑦両手が自由になるなど,根管治療のみならず修復およびその他の処置においても利点の多いことがわかる. しかし,日常臨床ではラバーダム防湿をかけにくい症例に遭遇することは頻繁にある.ラバーダムがかけにくい症例として考えられるのが,歯冠崩壊が著しく歯肉縁下のマージンの場合,未萌出歯の場合,歯肉が増殖している場合などがある.それぞれに特有な方法はないが,共通点が多い.フラップを開けたり高周波メスを用いて歯肉を除去して健全歯質を露出させて正確な接着操作を行いレジンにて隔壁を作ることである. ラバーダム防湿を行わない言い訳を考えるよりも,“どうしたらうまくラバーダムを掛けられるか”を考えることが臨床家として必要である.筆者の臨床では,根管治療における再根管治療が治療の9割を占めているが,修復物やメタルポストを外す前からラバーダム防湿を行っている.歯根・歯軸が不明瞭になるという意見もあるが,連続多数歯防湿により歯根歯軸が明瞭になる(図2). マイクロスコープを用いた歯科治療や光学印象も普及しつつある現在,新しい技術や機材が普及すればするほどラバーダムの必要性は増していくる.ラバーダム防湿別冊the Quintessence  日本歯内療法学会がすべての歯科医師に贈る最新トレンドPart 3テクニック編-9吉松宏泰緒言ラバーダム防湿の目的と利点臨床ラバーダム防湿法:Rubberdamology

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