QDI 2019年2号
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 本邦における高齢者は65歳以上と定義されており、インプラント治療を受ける患者の年齢層として多い。また、壮年期にインプラント治療を施行し、口腔内にインプラント補綴装置が存在している高齢者も多い。 そこで、「インプラント治療において、高齢患者がリスクファクターか?」について文献的に検討したい。 まず、本邦における高齢者のインプラント治療が高齢者以前の年齢との統計学的検討を行っている研究文献は少ない。高齢者のインプラント治療では、年齢のみがリスク因子としてはなり得ない。高齢者は有病率が高く、特有の臨床的特徴を有するため、全身管理が重要となる1)。つまり、65歳以上の高齢患者は全身疾患を有していることが多く、その全身疾患がリスクファクターとなる可能性はある。 一方、最近の海外論文において統計学的検討を行っている報告が数編ある。カナダ・アルバータ大学が行った調査では、歯科医院における60歳以上(平均62.18±8.6歳)の245名の患者、1,256本のインプラントの情報を解析した。インプラント成功率は92.9%、インプラントスレッドが露出した骨吸収は23.3%であった。本論文では、高齢はインプラント治療におけるlimiting factor(制限要素)ではないと報告している2)。 また、年齢によるインプラント失敗率を統計学的に検討した論文では、60歳および65歳以上においてインプラント失敗率に統計学的有意差はないといった報告が散見される3、4)。これらの報告では、インプラント治療において年齢はlimiting factorではないと結論づけてい る。このように文献的には、高齢患者がインプラント治療においてリスクファクターといった報告は見られない(表1)。 それでは、高齢患者がインプラント治療においてリスクファクターではないと結論付けて良いのだろうか。高齢者の生体的特徴や全身疾患は、インプラント治療においてリスクファクターと成り得るのではないだろうか。つまり、高齢患者のインプラント治療におけるリスク回避には、高齢者の問題点と対処方法について知っておく必要がある。表1 高齢者のインプラント治療を高齢者以前の年齢と統計学的検討を行っている研究Comptonら 2017年2)60歳以上の245名の患者、1,256本のインプラントの情報を解析。残存率は92.9%、インプラントスレッドの露出を認めた骨吸収は23.3%であった。高齢はインプラント治療の成功率におけるlimiting factor(制限要素)ではないと報告している。Parkら 2017年3)65歳以上の346名の患者における902本のインプラントの残存率と周囲骨吸収に関する後ろ向き研究。高齢はインプラントの残存率に影響を与えていないと報告。Sendykら 2017年4)2016年5月までの4,152論文におけるシステマティックレビューでは、60歳以上、59歳以下でインプラント失敗率に統計学的有意差はないと報告。インプラント治療において高齢患者はリスクファクターか?390203 ─Vol.26, No.2, 2019高齢患者は歯科インプラント治療におけるリスクファクターか?

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