QDI 2019年6号
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筆者が初めて経験したインプラント周囲炎症例 2000年代初頭までは、生体に埋入されたインプラントは、天然歯に起こるような歯周病が起こりにくいと考えられている風潮があり、インプラントは歯周病(のようなもの)になりにくいのではないか、と囁かれていた。 当時、筆者も自分の臨床経験からそのように思い込んでいた。ところが、3ヵ月に一度のメインテナンス患者を担当していた歯科衛生士から、「先生、ポケットが深く、出血と排膿があり、何かおかしいです」と報告を受けた。診てみると、確かに痛みはないが出血、排膿を認め、デンタルX線写真では骨吸収が確認できた(図1-a、b)。インプラント治療後6年経過していたが、原因がわからなかったためフラップを開けて確認してみたところ、インプラント周囲骨の吸収を生じ、スレッドが露出していた。加えて、唇側の骨が薄くなりインプラントスレッドが透けて見えるようになっていた(図1-c)。 このような症状は、筆者にとって初めての経験で、それまで見たことも聞いたこともなかった。多くの知り合いの歯科医師にも確認を取ってみたが、「このような症例は初めてだ」などと言われ、結局、原因がわからず、患者の同意を得てインプラントを除去した(図1-d)。その数ヵ月後に再埋入を行い、現在に至っている。当時、インプラントを除去して筆者がわかったことは、除去することにより炎症が消失するということだけであった。未解明な病態・未確立の治療法 その後、2007年頃から日本でもインプラント周囲疾患に関して報告されるようになり、その要因は細菌、免疫反応、力などさまざまあることがわかってきたが、明確な整理はできていなかった。そのため、2012年に仲間と一緒にスウェーデン・イエテボリ大学の研修に参加し、スウェーデンではどのようにインプラント周囲疾患が考えられているのかについて、基礎から臨床まで学んだ。しかし同時に、依然としてその病態は完全には解明されておらず、またその治療法も確立されていないことも知ることとなった(図2)。 そこから数年経過した現在でも、インプラント治療を適応した歯周病既往患者において、歯周病が再発して進行してもインプラントはまったく影響を受けない症例や、逆に天然歯周囲の組織は正常でもインプラント周囲のみ炎症が進行する症例を経験することがあり、悩まされている。また、口腔衛生状態が悪い患者で、インプラ図2 イエテボリでの研修。研修では、Wennström教授やBerglundh教授、そしてAbrahamsson教授の2日間にわたる濃密な講義を受講できた。その後、本特集にも寄稿いただいているGiovanni Serino先生の講義も受講し、インプラント周囲疾患の理解を深めた。図1-a〜d 筆者が初めて経験したインプラント周囲炎症例。当時は、原因や処置法がわからずインプラントを除去した。acbd日本人のインプラント周囲疾患を研究するに至るまで小野寺良修370865 ─Vol.26, No.6, 2019

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