QDI 2020年1号
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(2)上皮付着 歯周/インプラント周囲組織ともに上皮組織は基底膜とヘミデスモゾームを介してエナメル、セメント質/インプラント表面に接している。インプラント周囲の上皮付着は歯周のそれよりも長い傾向にあることが動物とヒトの組織学データから確認されている。(3)結合組織付着 インプラント周囲の結合組織付着は歯周のそれと似ているが、大きな違いはその走行である。歯周組織の場合は、コラーゲン線維がさまざまな方向から複雑に絡み合っていて、垂直にセメント質に入り込んでいる。その一方で、インプラント周囲のコラーゲン線維はおもに骨からくるものしかなく、それがインプラント体に並行に走行している。このコラーゲン線維の束は、腕周りの袖口のようにインプラント周囲を取り囲むように走行していて、これにより軟組織がインプラント周囲を塞ぐ役割を果たしている。ここが歯周組織との大きな違いで、機械的には歯周組織のコラーゲン線維のほうが強いと言える。 この差は患者の口腔清掃状態が良好で細菌の量が生体が対処できる範囲内にあれば、臨床的な違いとして現れない。ペリオプローブをポケットに入れると、炎症がない場合、ペリオプローブの先は歯周/インプラント周囲ともに上皮性付着の中にある。しかし一度炎症が起きると、上皮の付着が弱まりプローブの先がさらに奥の結合組織にまで到達してしまう。このポケットが深くなる度合いが、インプラント周囲組織の場合はたとえ軽いものであっても歯周組織よりも深くなる傾向にある1)。 細菌に対する防御力の違いは、歯周組織の場合、血液は歯根膜と歯槽骨の骨膜上の血管から豊富に供給され、インプラント周囲組織の場合、歯根膜がないため血液の供給源は歯槽骨の骨膜上の血管のみであることも関係している。血液の供給源が少ないためにいざ細菌の侵襲があった場合にインプラント周囲のほうがより防御力が弱いと推測される。(4)Supracrestal tissue attachment(STA)/生物学的幅径 1961年にGargiuloらが発表した献体を組織学的に計測したデータ2)によると、歯槽骨頂から歯肉溝底部までの歯肉の付着幅が、正常な歯周組織では歯槽骨頂から歯冠方向に約1.07mmの結合組織性付着、および約0.97mmの上皮性付着が存在するとしている。そしてこのおよそ2mmの幅を「Biological width」と称した。日本ではBiological widthをそのまま訳して生物学的幅径としていたが、2018年の歯周病新分類ではBiological widthではなく「Supracrestal tissue attachment(STA)」と称するようになった。 インプラント周囲にもこのSTAが存在すると考えられていて、動物実験のデータでは、上皮付着が2mm、結合組織付着が1〜2mmとインプラント周囲のSTAは天然歯の周囲のものよりも若干長い傾向にあることが確認された。これはヒトの組織学的データでも似たような傾向にあることが確認されている3)。図1 歯周組織とインプラント周囲組織の比較(図は『こうすれば防げるインプラント周囲炎』[著=石川高行、山森翔太、クインテッセンス出版、2012]P.29より引用)。インプラント治療のための 骨増生テクニック米国歯周病専門医が教える インプラント基礎講座1歯欠損から始める安心・安全なインプラント治療結合組織骨歯肉溝上皮接合上皮インプラント体エナメル質歯肉溝歯肉溝上皮接合上皮結合組織セメント質骨歯周組織インプラント周囲組織約0.97mm接合上皮約2mm約1.07mm結合組織1~2mm約2mm生物学的幅径2~3mm歯根膜、歯槽骨の骨膜からの血管血液の供給源歯槽骨の骨膜からの血管のみあり歯根膜なし歯根膜1030103 ─Vol.27, No.1, 2020

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