QDI 2020年4号
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開始し、通常24時間以内に血餅が抜歯窩を満たす。この血餅はおもにフィブリンやフィブロネクチン、その他血漿タンパク質で構成され、豊富に赤血球を含んでいる。この最初の血餅の機能には、①止血、②この後の治癒の過程で必要となる細胞がはたらきやすい足場を作る、という2点が挙げられる。炎症/肉芽期(抜歯後約12時間〜4週) 血餅ができあがって程なくして、多くの炎症細胞(好中球やマクロファージなど)が抜歯窩の周りの組織(歯肉や骨)からやってくる。これらにより、抜歯窩の中に残っていた細菌や損傷を受けた組織などが除去される。この時に残存している細菌や異物が多い場合はその分治癒に時間がかかり、最悪の場合は炎症が続き、それが周りの歯肉や歯槽骨の破壊につながる。炎症は諸刃の剣で、細菌や異物を除去するのに必要不可欠な過程である一方、周囲組織の破壊にもつながる。 後者のような不必要な炎症は避けなければならない。そのために、術者は抜歯の際になるべく損傷した組織を取り除いたり、抜歯窩に細菌を残さないようきれいに不良肉芽を掻爬したりと生体の治癒をサポートするように努める。 また、炎症性細胞のはたらきによって血餅の線維の網目構造が分解され、歯根膜や骨髄から来た間葉系幹細胞が、おもにコラーゲンで構成された細胞外マトリックス(extracel-lular matrix;ECM)に置き換わる。さらにこのプロセスと並行して、血管新生も進む。これにより、抜歯窩の周りから中心部分に向けて、小さな新生された血管の豊富な肉芽組織ができあがっていく。この時にできる肉芽は治癒の過程で必要な組織であり、けっして細菌の感染や異物反応に起因する不良肉芽とは異なることを強調しておきたい。この段階では破骨細胞の活動も活発で、特に抜歯窩の上部において骨のリモデリングにかかわっている。そして抜歯窩は縁から上皮と結合組織に覆われていく。増殖期(抜歯後約3〜14週) 間葉系幹細胞、骨芽細胞、線維芽細胞が、抜歯窩の周りからECMに集まってくる。このプロセスによりコラーゲンの密度が増加する。骨芽細胞が抜歯窩の周りの骨に隣接するところから、おもに内骨化の様式にしたがい徐々にECMの石灰化を始める。この時にできる線維性骨の間には多くの間葉系幹細胞、炎症細胞、脂肪細胞、そして血管が存在している。成熟期(抜歯後約12週〜) 破骨細胞、骨芽細胞、骨細胞による複雑な骨のリモデリングに続き、線維性骨が成熟し、層状骨に置き換わる。層状骨では、線維性骨に比べコラーゲンの走行が整理されて層状になり、さらに石灰化も進んでいる。成熟期では、骨の付加と吸収の平衡がバランスよく保たれている。 以上の抜歯後の治癒過程を知っておくことは非常に重要で、患者のフォローアップを行う際も、その都度抜歯窩で何が起きているのか想像しながら臨床を行うことができる。これを踏まえ、次項ではソケットグラフトテクニックの一般的な術式について解説し、その後に初心者が臨床で抱くだろう疑問に答えていく。図2 抜歯後の治癒過程。一般的に骨が薄い頬/唇側の骨がもっとも吸収してしまう。垂直方向の変化よりも水平方向に大きく吸収する。最初の3ヵ月のうちにもっとも大きな変化が起きる。抜歯後それぞれのタイミングで抜歯窩内で何が起きているかを知ることは、インプラント治療を行ううえで非常に重要なことである。成熟期増殖期炎症/肉芽期血餅期抜歯後20週抜歯後8週抜歯後4週抜歯後1週抜歯後0~24時間抜歯前インプラント治療のための 骨増生テクニック米国歯周病専門医が教える インプラント基礎講座1歯欠損から始める 安心・安全なインプラント治療950599 ─Vol.27, No.4, 2020

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