Quintessence DENTAL Implantology2020年No.5
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はじめに 今日では、審美領域においてブリッジなどの従来の治療に加え、インプラント治療も選択肢となっている。1998年のトロント会議において、インプラント治療はその機能性のみならず、審美性も担保しなければならないとされた。つまり、上顎前歯部のインプラント治療では審美性を十分に配慮して実施すべきといえる。 インプラント修復における機能的、生物学的、審美的な成功に大きな影響を与える要因は、残存している硬・軟組織の量である。歯が欠損してから徐々に骨吸収とリモデリングが進行し、インプラント埋入部には水平・垂直的な骨吸収が生じる。そして、調和のとれたインプラント修復のエマージェンスプロファイル、十分に成長した歯間乳頭、歯肉の対称性、安定した軟組織などに特徴づけられる審美性を獲得するためには、三次元的に適正な位置への埋入を可能にする組織増生術が不可欠である。 インプラント埋入のための組織増生には、硬・軟組織移植、骨再生誘導法(GBR)、仮骨延長法およびリッジスプリット法など多数あり、多くの外科手技が硬・軟組織の厚みを増し、理想的なカントゥアを得るために採用されてきた。ただ、これらの手法は、すべてにおいて長所・短所があり、特に外科的侵襲の大きさはつねに議論の的となる。 そこで今回検証していきたいのが、矯正的組織増生法(Orthodontic Implant Site Development;OISD)である(図1)。これは骨生理学ならびに矯正学的な原理に基づく手法で、矯正的挺出はインプラント埋入前の処置として前歯部の骨レベルの三次元的整形にも有用であり、前歯部インプラント治療における1つのオプションとして考慮されるべき手法である。一方、この手法には適応症や増生量に限界があり、一般的な選択肢として積極的に取り入れられてはいないという現状もある。 本稿では、筆者の臨床経験から得た知識をもとに、この術式の論文的根拠、注意点などを考察していきたい。矯正的組織増生法の文献的考察 まずは、OISDの歴史的背景と論文的な考察を提示したい。OISDの原型と呼べるものとして、1993年にSalamaらが「orthdontic extrusive remodeling」と称した新しい治療を提唱している1)。これは、ホープレスな歯に対して矯正力をかけて挺出させ、新しい硬・軟組織の形成を試み、そこにインプラントを埋入する手法である。多くの臨床医たちはこの手法(別名「orthodontics extraction」あるいは「forced eruption」とも呼ばれる)をインプラント治療における外科的な組織発育の有効な代案として提唱した。図1 従来の矯正的組織増生法(OISD)の概略図。垂直的牽引型の場合には、水平的骨幅は歯根の断面積に依存するため増生された水平的な骨幅が十分ではなかった。そのため、GBRなどの追加の組織増生が必要であることが多かった。矯正的組織増生法 ─低侵襲なインプラントサイトディベロップメントの提案─310699 ─Vol.27, No.5, 2020

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