Quintessence DENTAL Implantology2020年No.6
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林 揚春東京都開業:優ビル歯科医院Yoshiharu Hayashi林 揚春東京都開業:優ビル歯科医院Yoshiharu Hayashi テクニックの可能性 Hürzelerらは、抜歯予定の歯の歯根片を加工してインプラントの唇側に残すことで、失われやすい唇側歯槽骨を保存するコンセプトを提唱したが、当初は骨縁から1mmの高さまで歯根片を残し、インプラントと歯根片を接触させていたため、歯根片が軟組織から突出したり、感染を起こすなどの併発症が生じていた。さまざまな改良を重ね、現在では信頼ある術式として応用されているが、抜歯予定の歯の状態はつねに歯根片に加工するのに理想的な状態とは限らない。 そこで本特集では、このコンセプト“ルートメンブレンテクニック”の日本における先駆者である林 揚春氏に残存歯の状態に応じたルートメンブレンテクニックの術式を解説していただく。(編集部) 唇側歯槽骨は、おもにBundle bone(束状骨)によって構成され、その厚みは約0.6〜0.8mmである。Bundle boneはおもに歯根膜から血液供給を受けているために抜歯後にすみやかに吸収し、唇側の歯槽突起の形態や歯間乳頭が失われやすい。特に審美領域では抜歯後の歯槽骨の吸収量が予測できないために処置が困難になることが多い1、2)。 そのため、抜歯待時埋入や遅延埋入処置を選択し、吸収を起こした歯槽堤に対して十分なインプラント周囲の硬・軟組織を増やす処置を行うことで、外科的侵襲による痛みや腫れ、外科処置回数の増加および治療期間の長期化による患者のQOLの低下などの問題点を有していた。 これらの問題点を解決するためにSiormpasらによるルートメンブレンテクニック3)(以下、RMT)とHürzelerらによるソケットシールドテクニック4)が開発された。開発当初は両者のコンセプトや術式に違いはあったものの、多くの臨床家が改良を重ね、現在ではほぼ同一の手法となり5、6)、最小限の外科的介入、総治療期間の短縮、最適な審美結果をともなう予測可能な治療法として用いられている。この手法は健全な唇側歯根片を残すことにより薄い唇側歯槽骨を保存し、歯槽突起および歯間乳頭を保存する方法である。 現在のRMTの基本的な術式は、歯冠部を水平的に切断し、長いシャンクの根切除バーで歯根を可能なかぎり先端まで近遠心方向に切断し、唇側歯根片を残存させて口蓋側歯根片を抜去する方法であるが、テクニックセンシティブであり、未経験者には手間と時間を要することは言うまでもない。 しかし、その処置による効果は絶大で、天然歯と変わらない歯槽突起形態と歯肉縁形態が再現できるので、単独インプラント周囲歯肉の客観的評価であるPink Esthetic Score7)(PES)では最大スコア14を得ることも可能となり、患者の満足度も長期的な予知性も高い。はじめに250869 ─Vol.27, No.6, 2020

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