Quintessence DENTAL Implantology2021年No.1
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ではあるが非常に重要である。また、仮にインプラント手術が成功しなかった場合は別の手段にて全力でサポートする意思を伝えておくことも、術前の説明として重要であると言えるだろう。筆者がまだ初心者であった頃行った下顎臼歯部1本のインプラント外科手術では、患者が手術当日に極度に緊張しており、たった1本の局所麻酔を打っただけで全身が痙攣しだし、期外収縮を起こしたことがあった。筆者はすぐさま患者の肩に手を置き、手術を中止する旨を伝え、酸素を与えて全身状態を安定化させた。いま思えば、きっと術前説明が十分でなかったうえに、術者である筆者の不安がそのまま患者に伝わったのであろう。このように、術前の患者の心理状態を含めた全身管理は非常に重要である。(2)局所麻酔は複数回に分けて打つべし インプラント外科手術を行うにあたり、緊張感が強い患者においては笑気吸入麻酔を与えることで精神的な安定が得られることや静脈内鎮静法の有効性は周知のとおりであるが、手術を行うために必要な局所麻酔薬の注入は患者のバイタルを不安定に変動させる影響があることを再認識したい。つまり局所麻酔の注入をいかにうまくコントロールすることができるかが、安定した外科手術を行うにあたり重要となる。血管収縮剤を含む局所麻酔薬は、手術を行うために必要な全量を、時間を空けずに一気に注入したとすると、患者の心拍・血圧は急上昇し、緊張感も重なって全身状態は極度に不安定な状態となる可能性が高まるのである。それでは、さまざまな症例における局所麻酔の注入において、どのような配慮・工夫をすればよいのだろうか。 筆者は、表面麻酔を塗布した後に、患者がそれまでの一般的な歯科治療において経験したことのあるカートリッジ2本半ほどの量を周囲麻酔によって注入し、時間を空けてバイタルが安定した後、唇頬側から口蓋あるいは舌側方面にかけて追加注入してゆく。そして再度バイタル確認を行い、開創直前に唇側あるいは頬側への骨膜下麻酔を加える方法をとっている(図2)。唇側、頬側への骨膜下麻酔は、注入圧が高まるために患者の心拍、血圧が一時的に上昇してバイタルが不安定となりやすく注意が必要であるが、直後に行う切開・剥離により骨膜下に貯留した麻酔薬が解放されて浸潤圧が下がるので、全身状態は安定化してゆきやすくなる。よって、骨膜下麻酔を加える際には、極力切開・剥離する直前に行うのが良いと考えている。(3)周囲麻酔と骨膜下麻酔の勘所 周囲麻酔を加える際には、唇頬側の可動粘膜領域に対して麻酔針のカット面を下にし、可動粘膜面に対して少しだけ角度をつけて針先で粘膜面の表層を掬うように引っ掛けつつ同時に麻酔薬を注入してゆく。そうすることで、(表層は表面麻酔が効いているため)患者にまったく痛みを与えることなく麻酔針を刺入させることができる(図3-a、b)。そして針先のカット面が表層下に完全に入ったら、針を押し進めることなく麻酔薬を注入してゆく。すると、可動粘膜内部が図1 局所麻酔による患者の術前バイタルへの影響。図2 筆者の実践しているインプラント外科手術における局所麻酔。局所麻酔の勘所=注入のコントロール表面麻酔周囲麻酔①:カートリッジ2本半―バイタルの安定を待つ―周囲麻酔②:唇/頬側から口蓋/舌側方面に追加加―バイタルの確認―骨膜下麻酔:開創直前に行う局所麻酔による術前バイタルへの影響麻酔量術者の状態打ち方手術の種類バイタル不安定患者の不安・緊張インプラント治療のための 骨増生テクニック超実践! 部位別インプラントの最新治療戦略Dr.高橋恭久の インプラント外科道場990099 ─Vol.28, No.1, 2021

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