Quintessence DENTAL Implantology2021年No.3
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はじめに インプラントが治療オプションとして日常的に用いられるようになった現代において、われわれ歯科医師には日常遭遇する欠損修復に対し、さまざまな角度から検査・診断し治療方法を立案する能力が求められている。 東京都港区のみなと保健所は、80歳で20本以上の歯のある「8020」を達成した区民が50%を超えた1)と発表するなど、患者の口腔内の残存歯が増える昨今において、インプラント治療は多数歯欠損のみならず、少数歯中間欠損にも多く用いられるようになってきた。筆者はその港区で開業して10年以上経つが、患者の欠損歯数は減少傾向にあると感じている。それにともない、インプラントを適用する症例も少数歯欠損が多くなってきている。少数歯欠損症例においては「天然歯とインプラントが口腔内で長期間共存する」ということが、口腔内にどのような変化を起こすのかを考えていく必要がある。マイグレーションの影響 インプラント治療における懸念事項といえば、インプラント周囲炎や埋入ポジションのミスによる審美的・機能的問題などが第一に挙げられる。しかしながら、天然歯が残っている歯列にインプラントが混在している場合、長期経過にともなう移動(マイグレーション)量の違いにより、審美的・機能的に問題が生じることが少なくない。成長発育が終わっても続く骨格的変化2)が、マイグレーション量の差を生み出しているのであろう。ⰪⰪマイグレーションによるコンタクトロス 中でもマイグレーションによるコンタクトロスは高い確率で発見されており3、4)、13年の経過症例では約8割にみられるとの報告5)もある(図1)。これにより食片圧入が起こり、インプラント周囲炎を惹起するだけでなく、結果的に隣在歯の歯周炎やう蝕につながることもある。 インプラント治療を選択する場合は、事前に患者に対してマイグレーションの説明をしておくこと、また可及的にやり直しができる補綴設計(スクリュー固定またはセメントの仮着)にしておくことが重要であろう。 しかしながら、口腔内は患者固有のものであり、少数歯中間欠損症例において、天然歯とインプラントのマイグレーション量の違いにより、コンタクトロスや咬合異常が必ず起こるわけでもない6)。簡潔な図にして説明したいところではあるが、治療は個々の口腔内状況により方法が異なる。そこで、本稿では症例を提示することでさまざまな状況下で筆者がどのような治療を行っているかを説明させていただく。図1 カプランマイヤー法を用いて評価したインプラント支持の固定性補綴装置と隣在天然歯間のコンタクトロスの発生率。(文献2より引用・改変)02550751001023456経過観察期間隣在歯とのコンタクトロス発生率78910111213(年)(%)190347 ─Vol.28, No.3, 2021

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