Quintessence DENTAL Implantology 2022年No.1
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第1回インプラント周囲硬・軟組織マネジメントの重要性プラントが骨内に埋入されたとしても、インプラントの外側の骨幅が薄ければ、インプラントによって骨髄組織の裏打ちを奪われることになるし、骨膜を剥離されることによって骨膜からの血液供給は遮断され、わずかに残ったインプラント外側の骨は吸収する可能性が高い。 Sprayらは3,000本以上のインプラント手術において、埋入窩形成後に歯槽頂から0.5〜1mmのエリアで唇側骨の厚みを計測し、その厚みと二次手術までの期間に生ずる垂直的な骨吸収量とに負の相関があり、厚みが1.4mm以下では重度の吸収が起こるが、1.8〜2mmあれば吸収量は減少し、一部に骨の添加もみられたと報告した12)。一方、大森らはインプラントプラットフォームレベルの骨幅を1mmと2mmに調整し、1回法でヒトに埋入したインプラントの硬・軟組織幅の3ヵ月後の変化を組織学的に観察したところ、両群ともに同様のディメンションを示したことから、プラットフォームレベルで1mmの骨幅が確保されていればインプラントの埋入が可能であると報告している13)。これらの報告は一見矛盾するようであるが、Sprayらの研究ではインプラント埋入前の形成窩の0.5〜1mm下での厚みを計測しており、通常ファイナルドリルよりも径の大きいインプラントを埋入することによってプラットフォームレベルでの骨幅はさらに薄くなっていたと考えられる。また、根尖方向での厚みも影響を及ぼすと考えられる。筆者は、快適で良好な補綴装置を長期にわたって維持するために、インプラント周囲に2mmの骨を獲得することを目標としている。112Quintessence DENTAL Implantology─ 0112Advanceインプラント治療の良好な結果を長期間維持するには インプラント治療は欠損補綴において高い機能性を発揮し、患者の人生の質を向上させ1)、今日では欠損補綴の選択肢として一般にも広く認識されている2)。インプラントでなければこのような結果を得ることはできなかったであろうと思わせる症例にもしばしば遭遇する(図1〜3)。 インプラントは健全な歯槽骨内に埋入されることが大原則であるが、現実的には抜歯が行われると、特に唇側において最大およそ50%の骨幅が失われると報告されている3)。また、たとえ骨欠損のない抜歯窩(ソケット)であっても水平的に3.8mm、垂直的に1.2mm程度骨吸収する可能性があることが示されており4)、ソケットプリザベーションを行ったとしても歯槽堤の形態を完全に維持することはできない5〜7)。さらに、歯周炎やインプラント周囲炎、歯根破折、エンド病変のような感染性の疾患による骨吸収が存在していれば、抜歯後の歯槽堤の萎縮はより大きくなるであろう8)。可撤性義歯の使用に由来する機能圧で歯槽骨が吸収し、咀嚼機能の低下だけでなくインプラント埋入が困難となることもある9)。 インプラントに支持される補綴装置が、快適で、良好な清掃性をもち、長期的に維持されるためには、インプラントが三次元的に良好な位置に埋入され、その周囲に十分な骨と軟組織が存在するほうが良いと考えられる10、11)。たとえばイン本連載を始めるにあたってインプラント治療のための硬・軟組織マネジメント 石川知弘 Tomohiro Ishikawa静岡県開業:石川歯科

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