QDT12月
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介護の現場にこそ補綴の力を― 噛める入れ歯をどう届けるか?―(後編)1)症例1年齢・性別:84歳男性。既往歴:加齢のため足腰の筋力低下にて歩行困難。口腔内所見:上下顎無歯顎で顎堤の吸収は認められず、高さも幅も十分ある(図1、2)。主訴:義歯が動いて食物が咀嚼しづらい。所見:本症例のような主訴の患者は、高齢者の総義歯患者において多く見られる。中でも、「義歯は新製してもらったが咀嚼ができない」といった場合に見られる典型的な義歯概形であった(図3、4)。上下顎とも 昨今、高齢者の認知症予防には、地域社会の介護にかかわる人や組織、そして家庭が皆でかかわっていく必要があると言われている。要するに、1人のクライアントに多くの人々が必要になってくるということである。そこで、われわれ歯科医療に携わる者がその役目をどのように果たすべきかが非常に重要になってくる。 認知症の治療に関しては医科の範疇であることは言うまでもないが、その中で歯科は口腔領域の咬合の確立と摂食機能の回復による認知症予防への関与、または進行の緩徐化に注目が集まっている。しかし、何はさておき、口腔内の汚れを放置して原疾患以外の感染症を誘発しないように歯科衛生士に口腔ケアを指示に床が小さく人工歯が床いっぱいまでに排列されている。とくに下顎義歯においては、このような排列状態では咀嚼時の義歯の動揺に対する抵抗部位であるレトロモラーパッドを義歯床が覆っていないので沈下および左右への動揺が顕著である。処置:ベッドサイドでも、前回紹介した光重合型ベースプレートであるトライアドを用いて即日に床延長を行う(図5~9)。この処置により咀嚼時の義歯の動揺を抑えることができたため、その後、時間をおいて義歯の新製を行うことにした(図10~16)。床延長のような処置を行った時には、咬合調整を十分行った後ティッシュコンディショナーを用いてダイナミックイし、予防することが肝であろう。ここで生じやすいのは、口腔ケアによって諸器官の疾病予防を促すことと、咬合と咀嚼機能を正常に回復した結果としてもたらされる脳血流量増加による認知症予防との混同である。これらは一見すると同じ予防処置の結果だと思われることがあるが、口腔ケアはあくまでも歯科衛生士などが行える「感染予防処置」であり、その効果は高齢者においてはとくに誤嚥性肺炎の予防に代表される。 さて、そこで今回の後編では、とくに訪問診療において高齢者の口腔機能、中でも咀嚼機能の確立を具体的にどのように行うかを何例か示してみたい。後編執筆にあたって1.歯科訪問診療において咀嚼機能の確立に努めた症例

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