QDT 2018年8月号
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口腔内で使用できるワックスデンチャーとティッシュコンディショナーを用いた総義歯の動的加圧印象質を備えた印象材がなかった頃の名残である。現在でも辺縁にモデリング・コンパウンド、床内面にシリコーン・ラバー印象材というように、せいぜい5分間ぐらいしか可塑性を示さずに硬化してしまう従来の材料が通法として多く用いられている。 結果的に、義歯周囲筋の運動限界と形態からの分類でいう機能印象が、加圧量からの分類でいえば選択圧印象が、開口度からの分類でいう閉口印象が行われ(図1)、口蓋皺襞など襞の形態を精密印象しているに過ぎず、完成義歯装着後の疼痛や調整操作が必要など、予後は不良なことが多い。有床補綴物は、患者自身で着脱できるものであり、仮に痛みを感じるようであれば口腔内に装着しておけない。そのため、患者が受容できる補綴物であることが重要である。 しかし、約60年前の1960年頃から、長時間可塑性を維持するハイドロキャスト印象材なども存在している。この持続的な可塑性を示す印象材は、膨張収縮といった理工学的問題はあるものの、前述のような一般的印象技法と比較して臨床的には何も問題がなく、むしろこれを使用することで筆者は優れた予後を多く経験している。これは、有床補綴物を支持する被印象体が、クラウンなどが装着される支台歯などの外力が加わっても形態や大きさが変わらない剛体ではなく、辺縁に相対する可動組織と床下面に相対する不動組織といった部位によって被圧縮度が異なる軟組織、すなわち可塑性のある弾性体(非剛体)であるため、咬合・咀嚼圧が加わった際に同等に沈下する印象結果が必須となるからである。 この印象結果を得るためには、人工歯排列がなされた中心咬合位と、咬合平衡を備えたワックスデンチャーもしくは治療用義歯をトレーとして、印象材には長時間可塑性を示すティッシュコンディショナーを用いた、機能運動時の床縁・床下組織配置印象、いわゆる咬合・咀嚼圧による動的加圧印象が推奨される1、2。 以上を踏まえ、今回は筆者の約60年にわたる有床補綴臨床の経験から、「有床補綴の印象採得」について解説したい。Ⅰ.周囲筋の運動限界と形態Ⅱ.粘膜組織への加圧量Ⅲ.顎の開閉1.粘膜静止印象Mucostatic Impression1.加圧印象Denite Pressure Impression1.開口印象Open Mouth Impression2.動的印象Dynamic Impression2.無圧(最少圧)印象Minimal Pressure Impression2.閉口印象Closed Mouth Impression3.機能印象Functional Impression3.選択圧印象Selective Pressure Impression図1 印象採得の術式。77QDT Vol.43/2018 August page 1263

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