QDT 2018年11月号
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19BPSエステティックデンチャー®の構想:「e Denture®システム」について(前編)19 筆者はBPS(Biofunctional Prosthetic System:生体機能的補綴システム、Ivoclar Vivadent)の国際テクニカルライセンスを取得して以来、15年の臨床経験を経てきた。しかし同時に、「たしかにBPSは優れたシステムではあるものの、そのマニュアルだけですべての症例に対応できるものではない」ことも実感してきた。そこで8年ほど前から、印象採得法を学ぶために阿部二郎氏(東京都開業)の「下顎総義歯吸着理論」、諏訪兼治氏(故人、大阪府開業)の「接着義歯」、および深水皓三氏(東京都開業)の「治療用義歯」、そしてMax Bosshart氏(歯科技工士・スイス開業)や堤 嵩詞氏(歯科技工士・PTDLABO)といった多くの先達の考え方を臨床術式に取り入れる努力を続けた。そして、現 e Denture®システムとは、前述のとおり総義歯における口腔内診査によって明らかになった問題をひとつずつ解決する術式である。顎位の決定は1つ目の治療用義歯に設けた臼歯部フラットテーブルにて行うが、このステップをe Denture®ファーストトリートメントと名付けた(以下、ファーストトリートメント)。臼歯部が安定した咬頭嵌合位にある際に、上下顎前歯は咬合接触させず、わずかなスペースを保持させる(アンテリア・カップリング)。 次に、e Denture®セカンドトリートメント(以下、セカンドトリートメント)として、2つ目の治療用義歯を製作する。セカンドトリートメントでは、フラットテーブルに代えてリンガライズドオクルージョン用の人工歯で咬合関係を作り直す。最終義歯の咬合と近い状態にして、粘膜調整材を上下の義歯内面に敷いて粘代の患者が求める審美に最大限配慮した「BPSエステティックデンチャー®」を確立することで適応症の拡大を図ってきた。結果、かなり良い臨床成績が得られるようになったものの、いまだに少数の難症例患者に対しては満足な結果が得られないことも事実である。 こうした経緯から、筆者らはさらに優れた「e Denture®システム」の開発に至った。e Denture®システムとは、2つの治療用義歯によるBPSエステティックデンチャー®のサポートシステムであり、診査で明らかになった問題をひとつずつ解決する術式である。本稿では、難症例に対応するe Denture®システムの術式について2回に分けて説明させていただく。膜の補正を行う。これは機能させながら部位によって異なる被圧縮性を印象する方法で、実際には「粘膜のアイロンがけ」すなわち粘膜面の皺が徐々に伸ばされていくようにみえる。そして、この2ステップを経て義歯を不満なく使える状態になってはじめて、最終義歯としてのBPSエステティックデンチャー®に移行する。この、治療用義歯による2段階の方法をe Denture®システムとよび、生理的維持・安定、機能回復などを最大限に発揮することで、難症例への臨床対応が可能と考えている。 筆者が以前のBPSエステティックデンチャー®を開発した当初は、単純に顎位・ゴシックアーチおよび粘膜を観察し、治療用義歯ではそれらを修正するだけと考えていた。しかし、フラビーガムや過剰な骨隆起に対しては完璧な対応ができず、とくに、ClassⅢのはじめに1e Denture®システムとは?QDT Vol.43/2018 November page 1739

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