QDT 2019年7月号
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62Feature article #2 無歯顎症例に対して補綴を行う際のファーストチョイスは総義歯である。筆者が日常行っている技工の多くが自費の総義歯製作であるが、JPDA(有床義歯学会)の指導技工士として名誉会長である阿部二郎先生(阿部歯科医院)から下顎総義歯の吸着理論を学んだことで、すべての症例で吸着する総義歯を製作することが可能となった。しかし、吸着(近年さまざまな言い回しがあるが本稿では吸着とする)の効果は平面的である。吸着により患者の下顎の総義歯が「くっつく」という満足度は得られるが、より重要なのは立体的に咀嚼した際の総義歯の安定であり、咀嚼した際に吸着を失う総義歯も存在する。患者によって吸着度合いに差はあるが、いずれにしろ吸着する総義歯が無歯顎治療のゴールではなく、違和感なく、かつ痛みなく外れずに安心して食べることができる総義歯を製作することがゴールである。筆者が考える臨床のゴールは、ご家族などと同じものを同じスピードで食べていただくことである。 インプラントオーバーデンチャー(以下、IOD)は2002年にカナダで行われたMcGillコンセンサス会議にて「下顎無歯顎症例において2本のインプラントによるIODがファーストチョイスである」(なお、以降は2本のインプラントによるIODは2-IOD、4本の場合は4-IOD、6本の場合は6-IODと称す)とされたことで世界的に注目された。当時は下顎の総義歯の吸着は困難であり、2-IODによる維持・安定が必要とされていた。現在では下顎の総義歯の吸着は難しい手技ではなくなり、下顎無歯顎症例のファーストチョイスは吸着義歯であるといえる。しかし、前述したように吸着の効果は症例によって異なる。また、咀嚼時の咬合力は義歯の吸着力を失わせ、義歯が外れる方向への力を及ぼす。総義歯は粘膜の上で動きながら機能しているということを理解しておく必要がある。宮下1は、上顎の義歯はタッピングだけで最大0.78mm、咀嚼時には最大1.32mm動いたと報告している。また、咀嚼時の義歯の傾斜については上顎で最大3.46°、下顎で最大4.11°Feature article #2須藤哲也Defy千葉県松戸市西馬橋3-2-2 田川ビル201インプラントオーバーデンチャーを成功させる考え方と製作ステップ前編:正確にインプラントオーバーデンチャーを製作するためにはじめにQDT Vol.44/2019 July page 1094

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