QDT 2019年9月号
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30Feature article #11)歯科臨床の目的は「咀嚼機能の回復と維持」 歯科医療が生体・生命の健全な営みにかかわるにあたり、その役割としてはやはり「ヒトがものを食べられるような口腔環境を作ること」であり、そういう意味で筆者は、歯科臨床の目的を「咀嚼機能の回復と維持」と位置づけている。もちろん、歯の色調や排列の美しさなどといった審美性の追求は心理的要求や個性演出といった幸福感や満足感の面で意義はあるものの、やはり冒頭の目的を達成した次に考えるべき課題 主機能部位とは、「咀嚼初期の食物粉砕時に中心となって機能する部位」のことをいう。この概念は、1996年に加藤ら1によって日本顎口腔機能学会誌に発静的環境の整備から動的環境の検証へ図1 ラボサイドでの補綴装置製作においては通常、咬合器上で咬合が作り上げられていく。この補綴装置が口腔内に装着されると、それまで確認できなかった「軟組織との連動運動」すなわち「咀嚼」が繰り広げられることになる。ではないかと捉えている。咀嚼機能を重要視することは歯科医療従事者としての責務であろう。2)静的環境の整備から動的環境の検証へ  補綴治療におけるラボサイドでの補綴装置製作では、顎口腔機能の再現手段として通常は咬合器を用い、咬頭嵌合位や下顎運動など全体とのバランスを取りながら咬合が作り上げられていく。そしてこの補綴装置がひとたび口腔内に装着されると、ラボサイドでは確認し得なかった「食物を介しての軟組織との連動運動」すなわち「咀嚼」も開始されることとなる(図1)。補綴装置製作時には咬合支持の安定化や咬合接触の均一化に努めるものの、実際の咀嚼では食塊が存在するために咬合接触の均一化といった理想の咬合様式のようにはいかず、むしろ「主役の歯」と「脇役の歯」とに明瞭に役割が分かれてしまう。この「主役の歯」こそ、今回のテーマである「主機能部位」と捉えたほうがわかりやすい。「どこで噛んでいるのか?」を示す主機能部位を確認することは、口腔機能のみならず、補綴装置さらには欠損補綴までもの評価につながり、ひいては残存歯の負担軽減対策や効率の良い補綴設計の参考となるため、歯科臨床の目的を達成するために重要なことだと考えている。本稿では咀嚼の中でも主機能部位に注目した補綴治療としての見解を述べてみたい。表され、時を経て筆者は2006年に歯科商業誌2を通してはじめて知ることとなった。知っていたようで何も知らなかった筆者にとっては、まさに「目からうろこ」はじめに1.主機能部位とは何か咬合器上……静的環境(軟組織の関与なし)の整備口腔内……動的環境(軟組織の関与あり)の検証へQDT Vol.44/2019 September page 1370

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