QDT 2019年9月号
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抄録 本論文では、バイオミメティクス(生物模倣科学)やミニマルインターベンション(MI)など現代の歯科的アプローチの観点から、生物学的幅径の臨床的重要性について再考する。従来は深いう蝕がある場合に、歯周組織の喪失、根面露出、下部鼓形空隙の拡大(ブラックトライアングル)、審美障害を防ぐために、歯冠長延長術が用いられてきた。これは、生物学的幅径を重視し、修復物マージンを上皮性付着および結合組織性付着から遠ざける目的で、深いう蝕の周囲の歯周組織、骨、歯肉を切除することで行われた。また、歯周組織の炎症、アタッチメントロスを引き起こすことから、歯肉縁下のう蝕治療に適用できる修復材料は存在しなかった。現在では、修復歯科学的アプローチはより保存的となり、従来の引き算的手法から、足し算的手法へと変化してきた。この観点から、深いう蝕へのアプローチとして歯冠長延長術からディープマージンエレベーション(Deep margin elevation:DME)へのパラダイムシフトが考えられる。本研究の目的は、さまざまな種類の充填材料を用いて行われたDMEが歯周組織に与える臨床的、組織学的影響について、科学的なエビデンスを求めて文献レビューを行うことである。 本論文では新規のアプローチとして、修復充填された根面に対して根面被覆術を行った過去の研究の結果から推測し、DMEにより正しく接着が行われた充填物表面への隣接面結合組織の治癒過程についての仮説を立てた。この過程について3症例を供覧し解説する。DMEは非常に要求度が高い術式ではあるが、周囲の歯周組織に臨床的にも組織学的にも許容されやすい。歯冠長延長術は臨床的価値の高い術式ではあるが、時代とともに適応が減少していくと考えられる。

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