QDT 2019年12月号
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125第6回(最終回):顎関節症の患者にF.D.O.の咬合様式を応用した1症例 今回の症例は、顎関節症をともなう患者の全顎治療である。顎関節症をともなう場合、治療中、治療後も顎位が変化する可能性がある。そのため筆者は、術前にMRIを撮影し関節円板の状態等を把握して治療にあたるようにしている。そして、最終補綴物はアンテリアガイダンスが顎運動に調和し、バーティカルストップをしっかりキープできるという条件を考えると、これこそF.D.O.が最適と考える。また、F.D.O.の場合エリアオブセントリックで咬頭対窩を接触させるため、術後の咬合調整を行いやすいという利点もある。 以上から、全体的にマネージメントの難しかったこの症例をあえて選ばせていただいた。診を行うと左右の側頭筋と右側の顎関節部と右側の顎二腹筋に圧痛を認めた。歯周組織検査からは重度な歯周病は認められなかった(図3)。なお下顎左側第一小臼歯は歯根破折が認められた(図4)。パノラマエックス線写真からは、下顎頭が小さく、形態的に左右差も認めた(図5)。MRIによる画像診断から両側の関節円板とも復位をともなう前方転移であることが認められた(図6)。また、上顎前歯部の舌側面にファセットを認めた(図7)。これらのことから臼歯部が喪失して下顎頭が若干後方に偏位し、関節円板が前方転移したのではないかと推測した。今回の発表によせて:「何故」この症例を選んだか?症例報告:①初診時状況と検査データ 補綴治療の場合、担当歯科技工士と担当歯科医師が同じ方向を向き、同じゴールに向かって仕事をすることがもっとも大切だと私は考える。歯科技工士だけ、もしくは歯科医師だけが学んだとしても、F.D.O.を具現化することは難しい。クワタカレッジでは、歯科技工士と歯科医師が桑田先生のもと、机を並べて学ぶことのできた数少ない学校であったと思う。それが先ごろ閉校してしまったことは、日本の歯科界、ひいては世界の歯科界においても大きな損失であると思うのは筆者だけだろうか。今回の症例は、クワタカレッジでともに学んだ歯科技工士と治療に取り組んだものである。 患者は66歳女性。下顎臼歯部が欠損のため、咀嚼が困難、また開閉口時の顎関節部の違和感が主訴で来院した。下顎左側臼歯部は抜歯して10年ほど経過、下顎右側臼歯は5年ほど前にブリッジが脱離しそのまま放置して支台歯で噛んでいる状態であった。上顎臼歯部にはう蝕があり、また舌側咬頭にはかなりの咬耗が認められた(図1)。前方および側方偏心運動においては下顎の残存歯がすべて接触していた。顔貌においては、左右の口角が下がり、上口唇、下口唇とも突出していた。顔貌からは、咬合高径が低下していると推測される(図2)。顎関節に関しては、左右ともにクリックを認めた。開口量は53mmと問題なかったが、筋触た。そして、F.D.O.を少し理解することができた。それ以降、筆者が手掛ける全顎治療における咬合様式は、すべてF.D.O.で行っている。現在、クワタカレッジコンプリートコース受講後10年が経ちやっと少し見えてきた感がある。今回は、その成果の一端を供覧させていただきたいと思う。QDT Vol.44/2019 December page 1927

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