QDT 2020年1月号
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97第1回 義歯治療の目的と押さえておきたい3つのポイント 現在、歯科界では急速にデジタル化が進んでいる。義歯製作においてもミリングマシンで削り出す義歯床材などを用いたCAD/CAMで製作する総義歯や、3Dプリンターや最新マテリアルを用いた製作工程の簡略化といったトピックスが注目される一方、印象採得や咬合採得、咬合付与といった口腔内で義歯を機能させるために肝心な項目には焦点が当たりにくくなってきているのではないかと感じている。 筆者の臨床経験年数は20年を迎えた。筆者が義歯を製作し始めたころは、自身の知識不足や経験不足が根底にあるものの、それに加えて製作を行ううえでの歯科医師との見解の違いなども多く、数多くのトラブルを経験した。そのおもな原因は、歯科医師ごとに印象採得や咬合採得、咬合付与などの考え方や手法が異なるからであり、筆者がその違いに対応することができていない、または気が付くことができていなかったことである。たとえば、1人の歯科技工士が10人の歯科医師から依頼を受けて義歯を製作するとする。そうなれば歯科医師の考え方は十人十色となり、歯科技工士が同じように製作していれば歯科医師にとっては良い、異なる歯科医師にとっては悪い評価を受けることもある(図2)。 筆者の場合、そういったトラブルを経験したことから、試行錯誤の末に義歯製作において押さえておかなければならない特に重要なポイントを3つに絞って設定し、まずはこの3点についての考え方を歯科医師と共有することにした。この3点を確実に行うことができるようになってから、さまざまな歯科医師の依頼に対して製作する義歯の品質を安定させることができるようになった。ここで筆者が重要視したのは、保険でも自費でも同じ精度で使用する材料もほぼ同一にできること、そしてテクニカルエラーを減らすためにできるだけ簡素化したシステムを確立することである。誤解のないように言及しておきたいのは、自費の精度を下げて保険義歯に合わせるのではなく、どちらにおいても精度を追求することを念頭においていることである。 本連載では総義歯の製作工程を改めて整理しつつ、この3つのポイントを解説していきたい。第1回目となる今回は、まずは筆者が考える総義歯治療のゴールについて、そしてそこに至るためになぜ筆者が挙げる3つのポイントが重要であるのかを解説していきたい。連載のはじめに苦手なのだよね……JIGFEACDBHα社のシステムが良い!β社のシステムが素晴らしい!!大学ではこう習った!私はこういう考えだ!図2 歯科医師が10名いれば、治療方針も十人十色である。歯科技工士への指示や要望もさまざまで、対応できないケースもでてくる。QDT Vol.45/2020 January page 0097

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