QDT 2020年7月号
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77第7回:IOSによるデジタル印象採得の注意点とその実際(後編)少数歯の修復であれば犬歯~最後臼歯の範囲で側方運動の確認には犬歯が必要図1 インレー・クラウンともに少数歯の処置であれば、犬歯から最後臼歯までの範囲で、デジタル印象を行うことが今のところ一般的である。図2 側方運動を確認する場合に、犬歯が印象範囲内に必要となる。データ量が過剰となりPCのスタックやシャットダウンを誘発することもあり得る。 IOSの使用において初心者にありがちなこととして、このデータの過剰採得が挙げられる。初心者からは、「たくさんデータを採れば、その分だけ正確なクラウンやインレーができると思う」という声を多く聞く。気持ちはわかるが、これはデータの飽和状態である。IOSにおいては、各社で表現は異なるが十分なデータ採得が完了すると画面で何らかの表示がなされるため、それ以上の印象採得を行わず操作を終了する。 一方でデータの不足は、逆にバーチャルモデルや補綴・修復装置の構築に当然良い結果をもたらさないため、必要十分なデータ収集を行わなければならない。データ不足となりやすい部分は、以前にも解説したが隣接面コンタクトや歯肉に近い部分のフィニッシュラインなどが該当する。こちらについても、各社ごとにデータ不足を示す表示があるため術前に確認しておかなければならない。過不足のないデータ集積が大切である。 それでは、どこまでの範囲をデジタル印象採得する必要があるのだろうか。修復・補綴処置の対象がたとえ1歯であっても全顎のデジタル印象採得を行うべきなのか、それとも両隣在歯のみの印象採得にとどめるべきなのか。初めてIOSを使用する歯科医師や歯科技工士は、悩むこともあるかと思われる。 たとえば、一般的な咬合などに問題のない単冠の臼歯部インレーやクラウンの処置において反対側の最後臼歯まで全顎のデジタル印象採得を行う必要性があるだろうか。筆者は学生時代に、補綴学の学生実習において指導教官より「単冠補綴処置であっても、全顎で印象採得を行うべきである」と指導を受けた。シリコーン印象材を用いてアナログの印象採得を行って超硬石膏で作業用模型を製作し、咬合器に付着した状態で補綴装置を製作することで全顎の印象採得に十分な意味を発揮させるという判断である。 咬合運動を検査・診断する場合において、側方運動時に作業側・平衡側の咬合を観察することは意味をもつ。たしかにそのとおりであるが、IOSを用いたデジタル歯科治療においては、そのメカニズムの違いから別のものとして捉え、客観的に考えたほうが良いと思われる。 デジタル技術による補綴装置製作に関しては、症例により可及的に広すぎない範囲の印象採得に収めたほうが精度に関して有利であるとの報告がある1。 そのため現在のところ一般的には、臼歯部のインレーであれば3歯程度まで、クラウンであればおおむね2歯までを処置する場合に、片側である犬歯から最後臼歯までをデジタル印象採得されているようである(図1)。犬歯を印象採得する理由は、側方運動を確認するために有効であるとの判断からである(図2)。実QDT Vol.45/2020 July page 0933

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