QDT2020年8月号
2/9

27咬合面形態を確かにする歯科技工士と歯科医師とのチームアプローチ ─時代を画する常温重合レジンを応用して─(前編:歯冠補綴編) プロビジョナルレストレーションは歯冠補綴装置の製作に際して形成された支台歯を暫間的に被覆する歯冠装置であり、診断や治療方針の確認、支台歯の保護、歯周環境の改善、咬合の支持、審美性の回復に用いられる1。その目的には、①歯髄の保護、②形成面の汚染(感染)の防止、③咬合関係・隣接関係の保持、④咀嚼機能の保持、⑤審美性の回復、⑥最終補綴装置への参考が挙げられる2。したがって、学問的にはプロビジョナルレストレーションの必要性については論をまたないであろう。 provisionalの直訳は「仮の、暫定的な」となるが、暫定とは確定するまでの間、一時的に対応すること、あるいは仮に定めることであり、プロビジョナルレストレーションを単純に「暫間」と位置づけることは補綴臨床において支障をきたすと言わざるを得ない。provisionalを紐解くと、provideo(先見の明をもって行動する)やprovision(現在の要求に応じて暫定として用意する)が語源であると言われている。したがって、プロビジョナルレストレーションはあくまでも「暫定」と位置づけなければならない。 しかしながら、一般臨床ではいわゆる“テンポラリー”や“Tec”とよばれ、プロビジョナルレストレーションが最終補綴装置装着までの被覆冠として「暫間」に位置づけられている場合が多くみられる。多くの補綴歯科治療において不可欠とされるプロビジョナルレストレーションだが、その用途は支台歯やアバットメントの審美的な被覆に限定され、その形態の評価は最終補綴装置の形態にはまったく活用されていないと言っても過言ではない。 そこで、プロビジョナルレストレーションの目的について追考してみたい。 “ファイナル”とよばれる最終補綴装置とは長期間使用するために計画・設計された補綴装置の総称であり3、破損や脱離しない半永久的な歯冠補綴装置を指すわけではない。最終補綴装置とは長期間の使用を目的とした最終選定した補綴装置を意味する。最近では「決定した」という意味を表すdefinitive(ディフィニティブ)という用語が市民権を得つつある。したがって、ファイナルレストレーションはディフィニティブレストレーションと名称を変更するべきであろう。 “仮歯”や“テンポラリー”とよばれる暫間補綴装置とは最終的な補綴処置が施されるまでの間、審美性、咀嚼、発音、咬合機能の保持ならびに回復、または診断や治療の補助的手段として比較的短時間の使用を前提とした補綴装置であり、その種類にはプロビジョナルクラウン(テンポラリークラウン)、プロビジョナルブリッジ、そして暫間義歯などがある4。暫間義歯とは最終義歯を装着するまでの間、審美、機能などの義歯の目的を達成させるために、ある一定期間使用する義歯であり、広義の意味で診断用義歯、治療用義歯、即時義歯、移行義歯などが含まれる5。診断用義歯とは診断および治療計画の立案のための一時的に装着される義歯である6。治療用義歯とは最終義歯の製作に先立ち、咬合の改善および床下粘膜治療などを目的として装着される暫定的な義歯である7。最終義歯とは補綴治療計画に基づき、暫間義歯による治療などを経て、全部床および局部床義歯の目的を達成するために必要なすべての前処置を完了した後に最終的に装着される義歯を指す8。 これらのことから、プロビジョナルレストレーションは固定性とは限らず、可撤性の補綴装置も含めるべきであり、補綴歯科治療を進める上で、そのプロセスはじめに (中村)1.プロビジョナルレストレーションの目的を追考するQDT Vol.45/2020 August page 1007

元のページ  ../index.html#2

このブックを見る