QDT2021年1月号
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71不十分な条件からの形態回復の工夫(前編) 各論に入る前に、まずは回復すべき理想的な形態とは何か、その基準を知っておく必要がある。理想的な形態に関する基準として、6前歯で捉えた場合には部位ごとの歯冠幅径(以下、幅径)の比率、各歯軸の傾斜、歯肉頂、ジンジバルライン、切縁の位置関係などが挙げられる1~6。ここでは₃~₂にラミネートベニアを装着した症例をもとに各基準を確認してみたい(図1)。 幅径に関しては左右側の対称性が得られた方が良いのは当然だが、上顎中切歯−上顎側切歯の比率に関しては黄金比が参考になるとされている1~3。黄金比にしたがうと上顎中切歯:上顎側切歯=1.6:1となり、上顎側切歯:上顎犬歯=1:0.6になる。しかし、上顎犬歯に関しては正面観においてはあまり参考にされず、実際は1:0.85程度が美しいと感じる比率とされる(図2)。また、上顎犬歯は正面観で歯列の湾曲の変曲点に位置するので、単純に黄金比は応用しにくい。そのため、黄金比は上顎中切歯と上顎側切歯の関係において参考とする。 上顎中切歯の歯冠長径(以下、長径)と幅径のバランスは永久歯のサイズをもとに算出すると、幅径は長径の約80%程度とされる4、5。日本人に限ったデータでは上顎中切歯は約73%、上顎側切歯では約71%程度であることから、70~80%程度のバランスを目標とすると良い6(図3)。 歯軸は上顎中切歯→上顎側切歯→上顎犬歯の順番で傾斜が強くなる7、8(図4)。また、歯軸傾斜は歯肉頂(zenith point)と切縁形態に強く影響される9(図5)。そのほか、唇側の隆線やトランジショナル・ラインアングルなども全体感として歯軸の見え方にかかわる。さらにトランジショナル・ラインアングルは幅径の見え方にも関与する(図6)。また、コンタクトポイントは後方へいくほど歯頚部寄りになる。そのため上部鼓形空隙も後方に向けて幅が広くなる8(図7)。歯頚線・切縁ともに上顎中切歯と上顎犬歯を結んだ線分の中に上顎側切歯が存在する10(図8)。 一歯単位で考えるならシングルインプラントの評価として提唱されているPES/WESの項目に着目すると良い11。これは歯肉(軟組織)の審美性に関するものをPink Esthetic Score(PES)、歯冠に関する審美性をWhite Esthetic Score(WES)としたものである。それぞれ5項目の評価項目があり、各項目に対して0・1・2の点数をつけ合計20点満点で評価する(図9~11)。図1 ₃~₂にラミネートベニアを装着している。図2 幅径は左右対称を目指し、各歯の比率は上顎中切歯:上顎側切歯:上顎犬歯=1.6:1:0.85程度が良い。図3 切歯における長径に対する幅径は70~80%程度が目標となる。1.6:1:0.851:0.711:0.73■理想的とされる幅径のバランス■6前歯で捉える場合の参考症例目標とすべき形態の基準QDT Vol.46/2021 January page 0071

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