QDT2021年6月号
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43診断用ワックスアップはじめて講座 近年、デジタル機器や新たな材料の進歩は著しいものがある。その進歩によって、とくにクラウン・ブリッジ等の補綴装置を製作する歯科技工所では製作手法や工程が大きく変化した。設備投資費用など大変な面もあるが、同時に多くの恩恵も受けていると考える。 筆者自身は、デジタルの進歩は確認しつつ、日々変化していくデジタルの長所・短所を理解した上で使用することを心がけている。つまり機材や材料に振り回されないことが重要であると考えている。なぜなら、歯科治療の目的、そして、患者が本当に必要としている補綴装置がなにかという本質は以前と大きくは変化しておらず、それを軽視して最新の機材や材料を使用することが、必ずしも“患者にとって適切な補綴治療”につながるわけではないと考えているからである。 では、なにが“患者にとって適切な補綴治療”につながるのか。筆者は、チェアサイドとラボサイドが治療を行う前段階でディスカッションを行うことで治療のゴールのイメージを共有し、その上で治療を進めることが“患者にとって適切な補綴治療”のための前提条件であると考えている。そのためのひとつのツールとして挙げられるのが診断用ワックスアップである。筆者は診断用ワックスアップを“患者にとって適切な補綴治療”を提供するための重要なステップと考えている。それだけではなく、事前に治療のゴールを共有することで製作後の後戻りのリスクを下げることができ、これは患者・歯科医師・歯科技工士のストレス軽減につながるというメリットもある。 しかし、「診断用ワックスアップをしたことがない」、そして「どのように行えばよいのかわからない」という方もいらっしゃると思われる。そこで今回は、診断用ワックスアップについての基本的な考え方や作業方法を紹介した上で、筆者が日々の臨床において、どのように考えて診断用ワックスアップを行っているのかを実際のケースを例に挙げながら紹介していきたい。 診断用ワックスアップは、歯科治療を開始する前に、歯科医師の指示の下で最終的な治療のゴールのイメージを模型上に具現化し、共有するのが目的である。重要なのは共通のゴールに向かってイメージを共有して歯科治療を進めることである。そのため、すべての症例で必須というわけではなく、歯科医師と歯科技工士が同じゴールを共有できる症例であれば、診断用ワックスアップを行う必要はないと考える。 診断用ワックスアップを行うチェアサイドのメリットは、治療計画の立案をより詳細かつ的確に行うことが可能になることである。また、患者とのコミュニケーションツールとしても使用でき、治療開始前に最終的な治療のゴールを視覚的に患者に対して説明することは効果的なコンサルティングになり、同時に患者の治療に対する不安を少なからず解消するのに役立つ。これは歯科医院と患者の良好な関係構築にもつながる。 ラボサイドにおいても、診断用ワックスアップによって事前に治療の最終ゴールをチェアサイドと共有することで、どのような方向性で治療が進められていくのかを理解することができ、製作時の大きな迷いがなくなる。これにより作業の効率化が可能というだけではなく、歯科医師とのイメージのずれによる大規模な修正や後戻りなどのトラブルの軽減にもつながる。はじめに治療のゴールイメージを具現化するのが診断用ワックスアップの目的QDT Vol.46/2021 June page 0693

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