QDT 2022年5月号_2
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図1 マイクロスコープにて観察すると、安静時にみられた歯冠部の空隙が噛みしめ時には緊密に接触している(本図は加藤均.連載 顎口腔機能と咬合および咬合面形態との関係 第2回 歯の変位様相からみた歯周組織の機能状態と咬合力との関係.補綴臨床 2003;36(4):420‐435を基に作図)。 筆者は、『部分床義歯の実力』を目の当たりにしていただきたく、本稿『なぜ部分床義歯は患者に評価されにくいのか』を著すことにした。 『義歯がもつ本当の力』をテーマにした理由は明快である。「義歯による治療は古い」「義歯は噛めない」「義歯を入れるとまわりの歯がやられていく」などの義歯に対する世間やわれわれ歯科医療従事者の評価を今一度見直してほしいと考えたからである。 近年の医療技術の進歩は著しく、われわれはつねに情報収集と自己研鑽、すなわち生涯学習を続けていかなければ、時代にあった良質な医療を患者に提供できない時代となった。 そんな筆者もかつては無数の研修会やスタディグループに参加し、新しい技術や理論を修得して自身の臨床に落とし込もうと少なからず研鑽を重ねてきたなぜ、部分床義歯は患者に評価されにくいのか? 無調整で解き放つ部分床義歯の力(前編)が、目に見えるような成果を得たと言うには程遠く、暗澹たる思いをしてきた。 「なぜ自分の製作した補綴装置は患者に評価されないのか、満足してくれないのか」。そこには2つの重大なミスや思い違いがあったことに気づいたのは、40歳を超えた最近のことである。 その1つ目が『情報の取捨選択』である。現在では学術雑誌や研修会、インターネットなどを通じて発信される医療関連情報が氾濫しており、中には一般臨床家によるドグマ(dogma:深く吟味しないで、独りよがりの判断を真理として主張する)とよばれる独断的な意見も少なくはない。 たとえば、「天然歯列において安静時の隣在歯間には空隙がある(図1)1-3「レトロモラーパッドは圧負担領域としては有効な領域ではない4」ことを知ってい21QDT Vol.47/2022 May page 0573若手歯科医師そうなんだ! どちらも論文で発表されて、科学的に証明されているんだよ!「笠原健一:機能時における隣接接触関係の観察」(1999)「田内義人:下顎遊離端義歯における床下組織の圧負担分布様相とそれに影響を与える因子の検討」(2014)若手歯科技工士ベテラン歯科医師え! 歯列の隣接コンタクトって空いてるの?技工所にはしっかり接触させるように依頼していたな……。え! レトロモラーパッドには支持能力がないの? 知らなかった~ 学校ではあるって習ったんだけどな……。安静時にみられた空隙が噛みしめ時には接触するはじめに ─患者が満足しない部分床義歯─

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