ザ・クインテッセンス6月
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はじめに 東日本大震災以降,被災者・被災地に対するさまざまな支援が行われてきた.歯科においても,まずは大きな避難所に歯科救護所が設置され,それは地域に仮設歯科診療所が開設されるまで続いた.外部からの支援としても,厚生労働省や歯科医師会などがアレンジし,大学や病院,歯科衛生士会の協力も得て,避難所などを巡回しての応急歯科処置が行われた.そして避難生活の長期化にともない巡回での歯科保健活動へと移行し,現在は地元歯科医師会・歯科衛生士会を中心とした支援へと移り変わってきている.当初,避難所における生活環境は整わず,各地で応急仮設住宅の建設が急がれたが,リアス地方において少ない平野部はすべて津波が遡上した地域であり,土地の選定からして時間が必要で,避難所が閉鎖されるまでは数か月を要した. 現在は多くの人が応急仮設住宅もしくはみなし仮設住宅に移っている.冬には水道管の凍結などの問題も少なからず生じたが,春の息吹を感じながら,水産業などの地域産業も徐々に再開されてきており,各地で復興祭などが開催され始めている. 避難所での歯科的対応や仮設歯科診療所開設までの状況については,本年3月号のザ・クインテッセンス(p8~13)にて詳述している.そこで本稿では,応急仮設住宅や保健福祉施設に対する歯科保健活動を振り返り,今後,歯科界として準備をしておくべき点を考察する.これまでの歯科保健活動(2011年9月~2012年3月) 住民の生活は一段落したとはいえ,まだまだ通常生活を取り戻せたわけではなく,完全に自分の生活を取り戻すにはこれからもまだ時間がかかる.狭い応急仮設住宅に移って家族や地域とのつながりを失った高齢者のなかには,廃用症候群や心の問題が浮かび上がってきた. このため,長期化する不自由な生活による悪影響を食い止めるための,歯科を含む地域保健活動が行われてきている.1.応急仮設住宅・福祉仮設住宅入居者への歯科保健活動 保健センターの保健師に同行しての仮設住宅への訪問は,9月より3月までの間,20回行った.そのうち1か所は参加者がなく,1か所は福祉仮設住宅だった.残りの18か所の応急仮設住宅では,合計145名(平均8名)の参加者があり,65歳以上が75%を占め,男女比は1:3だった.これらの参加者に対し,保健師の血圧測定や保健センターからの連絡事項の通達の後,歯科衛生士より口腔乾燥症や誤嚥性肺炎に関する講話や,それを予防するための舌体操や唾液腺マッサージ,そして,歌や遊び・ゲームを通した口腔機能訓練を実施した. 個別の歯科相談は31名より寄せられ(平均1.7人),その内容は義歯などの補綴に関するもの,歯科医院の再開情報や受診方法に関するものが比較的多く,その他,顎関節症,歯科検診希望,歯の手入れ方法などに関するものがあった.これに対しては同行した歯科医師が歯科衛生士とともに診察し,病態や治療方法の説明,歯科医院情報の提供や,口腔衛生指導などを行った. なお,これにあわせて,こころとからだの相談員(応急仮設住宅入居者の相談窓口を担当する職員)および保健センター職員(保健師・看護師・栄養士など)を対象とした,口腔ケアに関する勉強会も開催した.緊急寄稿1年間の活動の検証と今後の展望歯科界は今,何をすべきか?──宮城県女川町での活動を振り返って中久木康一/木村 裕*東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科顎顔面外科学分野*女川地区仮設歯科診療所連絡先:〒113‐8549 東京都文京区湯島1‐5‐45東日本大震災から1年経って──第2弾!女川町仙台岩手県宮城県福島県山形県陸前高田8the Quintessence. Vol.31 No.6/2012̶1178

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