ザ・クインテッセンス6月
5/8

109歯科の新しい話題を紹介.はじめに クオリア(qualia)は,近年の脳科学研究において注目されている概念で,脳科学者である茂木1によれば,「私たちの主観的体験のなかに感じられるさまざまな質感」を意味する.例を挙げれば,赤いイチゴを見たときにわれわれが感じるあの赤い“感じ”のことである.クオリアを深く追及すると自我や意識の問題あるいは哲学的な領域に至り,著者の理解範囲を超える.しかし“感じ”という意味合いで捉えると,歯科臨床にもかかわる興味深い概念となる. 本稿では,これまでの筆者の報告2~6に基づいて,クオリアと自覚症状との関連性を検討し,本概念の導入が歯科臨床にもたらす意義などについて若干の私見を述べたい.1.クオリアとは 桜の花は日本人にとってひときわ思い入れの深い花といえる.満開の花の下で人は視覚によってその色や形を知覚する.この時,心のなかには桜の花にまつわる思い出,季節の移ろいへの思い,喜びや華図1 筆者自身は,奮闘する小さな蒸気機関車に力強さ,誇らしさ,健気さを感じる.同時に,白と黒が織り成す情景に静けさや郷愁を感じる.クオリアは各人に独自の主観的世界である.中村広一元 国立精神・神経センター武蔵病院歯科連絡先:〒207‐0002 東京都東大和市湖畔2‐1004‐150Dental clinic and “qualia”Hirokazu Nakamura歯科臨床とクオリアキーワード:クオリア,歯科心身医学the Quintessence. Vol.31 No.6/2012̶1279

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です