ザ・クインテッセンス 2018年7月号
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根面被覆術知識の整理とupdate第1回 根面被覆の必要性と治療結果の予測新隔月連載(奇数月に掲載)119the Quintessence. Vol.37 No.7/2018—1571連載にあたって 日常臨床において,歯肉退縮を認める患者に遭遇しない日は稀であるように感じる.患者から歯肉退縮の原因やその治療法について質問を受けることも少なくない.この時,われわれ歯科医師には根拠をもった説明が要求される.歯肉退縮はなぜ起こるのか,放置したらどうなるのか,どんな治療法があるのかといった知識を整理しておかなければならない.しかし実際,患者自身が歯肉退縮は加齢変化によるもので改善できないと考えていることも多く,歯科医師はリスクを負う外科処置を避け,経過観察や露出根面をコンポジットレジンで充填するという対応が多いように思われる. このような処置が一般的なのは,歯肉退縮が歯の喪失に直接的に関与しないことを,われわれ歯科医師が経験的に感じているからであろう.これらの対応は決して間違いではないが,そこに「根面被覆術」という1つの選択肢も患者に与えるべきではないだろうか. そこで本連載では,「根面被覆術─知識の整理とupdate」と題し,歯肉退縮の分類や診査法,根面被覆術に関してエビデンスとしてわかっていることとそうでないこと,さらに代表的な術式の臨床例について3回にわたって解説したい.1根面被覆の必要性――歯肉退縮を放置したらどうなるか Chambronらは,未処置の歯肉退縮の経過についてシステマティックレビューを報告している1.彼らは頬側の歯肉退縮に根面被覆を行わなかった5~27年(平均8.9年)の長期症例において,退縮がさらに進行する可能性が高いこと,また十分な角化歯肉が存在すれば歯肉退縮の進行と新たな退縮の出現を減らすこと,歯肉退縮が原因で抜歯には至らないことを結論づけている. 図1は,12年間放置された歯肉退縮の症例である.歯肉退縮は初診時よりも悪化しており,治療の難易度も上がっている.このように,解剖学的リスクの高い状態で適切な治療を行わなければ歯肉退縮は悪化する可能性があり,重症度が増してからの根面被覆は完全被覆を達成できない場合もある.したがって,可能であれば歯肉退縮の根本的な治療として歯肉による根面の被覆と,角化歯肉の増大に努めるこ尾野 誠キーワード:根面被覆術,歯肉退縮,Millerの分類,Cairoの分類京都府勤務 四条烏丸ペリオ・インプラントセンター連絡先:〒600‐8007 京都府京都市下京区四条高倉西入る立売西町76 アソベビル3F

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