ザ・クインテッセンス 2018年10月号
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と戦略51the Quintessence. Vol.37 No.10/2018—2261SPEAKER’S ARTICLE第8回 日本国際歯科大会2018Bホール10/6(SAT)午後 歯周病が進行した口腔内には,歯周組織の喪失が見られ,また歯の喪失が起こっていることもあり,それらに起因する歯列不正や咬合の異常などによって,機能的,審美的な問題を抱えることが少なくない.このような状況に対し機能回復を果たすためには,歯周治療,矯正治療,補綴治療,欠損部へのインプラント修復などの包括的な治療が有効に働く. 一方,審美性については,歯周病によって歯を喪失するようなケースでは欠損部歯槽堤の骨量不足と同時に,そこに隣接する周囲天然歯においても骨吸収が進行し,歯肉退縮にともなう根面露出や,歯間乳頭喪失による鼓形空隙の拡大など,審美性を損なう問題を抱えていて,健全な歯周組織を有する歯列のような審美性を獲得することは困難な場合が多い. このような場合に考えるべきポイントを2つ挙げると,第1のポイントは「治療のゴール設定」にあると考える.高すぎるゴール設定ではリスクが高まり,低すぎる設定では患者満足が得られないため,適切なゴールの設定が必要になる. 患者や術者は可能な限り,①審美性の獲得,②歯の保存,③歯質の保存の3つそれぞれを達成したいと願うものである(図1)が,進行した歯周病をもつ歯列において,これら3つをすべて満足させることが可能なケースはきわめて限られたものとなるだろう(症例1:図2~9).今回論文タイトルに掲げた「ジレンマ・トリレンマ」であるが,ジレンマという用語は,ある問題に対して2つの選択肢が存在し,そのどちらを選んでも何らかの不利益があり,態度を決めかねる状態のことをいい,さらに選択肢が3つあり,3つの目標すべてを達成することはできず,そのうち2つを達成するためには残りの1つを犠牲にしなければならない状況のことをトリレンマと表現される.そのため,次善のプランとして,これら3つの目標のうちのいずれか1つを妥協し,他の2つの目標を達成することを考えることが現実的なプランとなり得る.術者は患者の希望に配慮しながら,審美性の獲得,歯の保存,歯質の保存というそれぞれの要素のなかで何を優先させるべきかを考え,患者の希望を聞きながら優先事項のバランスをとり,個々の患者にとって最善と思われる治療のゴール設定を行うことが求められる. 第2のポイントは,失われた歯周組織をゴールとなる審美的に要求される高さまで回復させ維持させるために,どのようなステップを踏んでいくべきかという「戦略」が重要となる.さまざまな状況に応じた適切な術式を選択し,治療手順を考え,タイミングを計り,軟組織および硬組織に対するティッシュマネジメントを的確に行っていく.このとき術者がもつ治療の選択肢が多いほうが,またその質が高いほうがゴールの到達に有利となると考える. そこで本稿では,審美性の獲得,歯の保存,歯質の保存というそれぞれの要素のなかで,何を優先させるべきかについて症例を通して考察する.はじめにGoal Setting and Strategic Treatment Planning Through Trilemmas : Esthetic Treatment for Dentition with Attachment LossHajime Kitajimaキーワード:ジレンマ・トリレンマ,歯周病,付着喪失,審美修復静岡県開業 北島歯科医院連絡先:〒438‐0017 静岡県磐田市安久路2‐22‐35北島 一

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