ザ・クインテッセンス 2018年12月号
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若年者における歯の移植のストラテジーはじめに インプラント治療が市民権を得た昨今,インプラント治療にまつわるトラブルや長期経過症例におけるこれまで予想されなかった課題も山積みしており,日本において歯の移植・再植についてもう一度見直す時期が来ている.昨年,本誌(2017年7月号参照)において,骨縁下う蝕,歯根破折等で抜歯の診断を受けた歯においても,検歯を行い,change surface,load bearing mechanismの変更を行うことで保存可能な歯も存在することを報告した1.とくに,成長期の患者における臼歯部欠損,歯冠崩壊は,その後の患者の口腔発育,咀嚼機能の成熟段階において大きな障害となる.しかし,成長期の患者に歯列弓長径を決定するブリッジやインプラントなどの固定性補綴装置は適応外であり,機能的保隙が困難である症例も多く存在し,先行永久歯の検歯による検査・保存,または非機能歯の移植という選択肢は重要な意味をもつ2〜7. そこで本稿では,成長期における先行永久歯欠損に対し,非機能歯の移植を行った症例を供覧し,過去の報告とともに考察を行う.若年者の非機能歯の特殊性 歯の移植に際して,成人と比較した際,若年者においてはドナー歯の歯根の成長が途中である点が特徴として考えられる.この点について,Moorreesらはエックス線検査において,Crown期(歯冠形成期)からApex期(歯根完成期)までの分類を行っており,それぞれの段階において移植歯のドナー歯としての特徴を分類している8.また,Andreasenらはドナー歯の歯根形成段階別に術後の歯髄の生着率について報告している9.それらの報告によると,Moorreesらのドナー歯の分類(図1)のおよそR3/4期までは,移植後歯髄の生着率は90%であり,Rc期を境に急激に歯髄の生着率は減少する.この現象について,Khojastepourらは歯髄の虚血・再灌流時に発生するフリーラジカルによる歯髄細胞の損傷が1つの原因であると報告しており10,硬組織に囲まれた歯髄軟組織は内圧の上昇,虚血・再灌流時のストレスに対して,根形成が進むにしたがい,その回復力が低下するものと考えられる.しかし,歯根があまりにも短く,術後に歯髄の生着がなされたとしても,歯冠-新名主耕平*/柳田泰志*1Strategy of Auto Transplantation for Young PatientsKouhei Shinmyouzu, Yasushi Yanagidaキーワード:歯の移植,再植,若年者*東京都開業 たんぽぽ歯科クリニック*1東京都開業 練馬桜台Y's歯科*代表連絡先:〒178‐0062 東京都練馬区大泉町4‐38‐13128the Quintessence. Vol.37 No.12/2018—2830

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