ザ・クインテッセンス 2019年2月号
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41the Quintessence. Vol.38 No.2/2019—0295を得ることが示されている(図2a,b).今後もよりいっそうの接着技術の進歩とバイオメカニクスの解明,そして,そこにデジタルテクノロジーが融合されることにより,適応範囲の拡大と力学的な信頼性,永続性のさらなる向上が期待される. 一方,日常臨床においては,失活歯,あるいは著しく崩壊が進み,構造上のトラブルを抱えた歯への対応を迫られることがたいへん多いのが現状である.図3は補綴治療における構造力学上の問題が治療後21年目に露呈した症例であるが,このように構造上の問題は,他要件の不備による問題と比較して短期間では現れにくく,顕在化しない形として内包され進行していく.そして,その結果が数年を経て,二次う蝕,あるいは歯冠・歯根の破折という問題として突如露呈し,ときとして抜歯という最悪のシナリオとなる可能性を有している. こういった症例に対しても接着や生体模倣といったMIの原則の踏襲は欠かせないが,同時に維持や抵抗など,従来補綴における基本的な構造要件を満たすことが求められる.そして,その必要条件を獲得するためには補綴治療に先立つ環境整備としてのさまざまな前処置が必要となることが少なくない.補綴前処置の必要性 さて,図4aは前歯部修復後わずか1年足らずで補綴装置周囲に炎症が生じ,再治療が必要となった症例である.そこで初期治療終了後,正確な適合と適切な形態を付与したプロビジョナルレストレーションを装着し,歯周外科の必要性を診査した.その結果,当初の問題は完全に改善されたため(図4b),そのまま補綴処置へと移行した(図4c).つまり,この症例はクラウンが周囲組織の清掃性を阻害しないという補綴装置としての生物学的要件が得られたことから,補綴前処置としての歯周外科の必要性がないと判断された症例である. ところが,術後に見られるように,歯頸ラインの◎生体模倣を最終ゴールとした修復治療図2a ラミネートベニアによる4切歯の審美改善を計画した.図2b 術後口腔内写真.マージンはすべてエナメル質内,歯肉縁上に設定している.◎構造上のトラブルを抱えたまま治療後21年が経過した症例図3 ₁₁は1995年にオールセラミッククラウンを装着した.治療後21年,₁クラウンの破折,₁クラウンとポスト一体の脱離が,同時に起こる.

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