ザ・クインテッセンス 2019年2月号
6/8

87the Quintessence. Vol.38 No.2/2019—03411歯周病治療の鍵となる歯科衛生士 1989年に厚生省(当時)と日本歯科医師会が推進し始めた「8020運動」は,開始から30年を迎えた.運動開始当初,達成率は7%程度(平均残存歯数4~5本)であった.厚生労働省は「健康日本21」で中間目標として8020達成率20%を掲げたが,2007年に出された中間報告では,それを上回る25%を達成した. その後,2017年6月の歯科疾患実態調査では,8020達成者が51.2%となり初めて50%を超えた(コラム①).その半面,う歯を持つ者の割合は,1993年と2016年を比較すると35歳未満では減少傾向にあるものの,55歳以上では増加傾向を示しており,とくに65歳以上では約20~33%も増加している. さらに4mm以上の歯周ポケットを有する者の割合は,2016年の調査ではどの年代も以前の調査より増加しており,とくに75歳以上では1999年の28.0%から2016年には50.6%と2倍近くにまで増加している.これらのことは残存歯数が増加したことで生活の質(QOL)が向上し,健康寿命の延伸につながっているといえるが,その半面,年をとるにつれう蝕や歯周病を有する歯が増えたことで,認知症になった場合など口腔ケアが十分に行われず誤嚥性肺炎をおこしたり,全身疾患を増悪させる危険を含んでいる. 生活の質(QOL)を保ちながら健康寿命を延ばしていくためには,いかに残存歯をう蝕や歯周病のない状態で維持していくかが重要となる.そのためには歯科医師よりも歯科衛生士の役割が非常に大きいと筆者は考えている.つまり,歯科衛生士が高齢者の残存歯のプラークコントロールや歯周病治療をしっかりと行い,メインテナンス(SPT)によって生活習慣を含め継続的に管理していくことで,口腔の健康を維持していくことが重要となってくる.そのためには,歯周病をしっかりと予防・治療することができ,メインテナンス(SPT)できる歯科衛生士の存在が鍵となり,歯科医院としては,そのような歯科衛生士をいかに自院に確保できるかが医院存続の鍵となる. 私は2001年に地元の中国新聞社の依頼を受け,当時人気のあったコラム欄,“緑地帯”に「口の中はドラマ」というタイトルで8回の連載を書いたことがある.その最終回(2001年12月20日号)にこんな記事を書いている.(以下,原文ママ)「私はこの秋,9月中旬から10日間,スウェーデンのイエテボリ市へ研修の旅に出た.イエテボリはスウェーデンの対岸に位置する港町である.パリ経由の飛行機が到着したのは,空港の明かりだけが瞬く夜更けであった.一夜明けて見る街は秋の真っただ中,北欧を感じさせる町並みが美しかった. スウェーデン.この国こそ世界最高基準の歯科医療先進国である. 日本では「80歳で20本の歯を残そう」という運動があるが,現状は4本にも満たない.この国では75歳で平均19本以上の歯を維持している.またカリエスフリーといって,1本も虫歯のない人が日本では19歳で4%であるのに対し,この国では59%に達している.これは60年前から進められた社会福祉制度が実を結んだためで,今も子どもは19歳まで金額の上限なく無料で治療を受けられる. スウェーデンの歯科衛生士は社会的地位の高い職業で,独立開業もできる.50代の後半かナ? と見えるアンナさんもその一人で,歯科医と共同経営の形で診療室を持っていた.彼女は歯周病の治療とそのための正しい歯のケアを患者さんに手ほどきしていた.「アンナにはもう20年以上も診てもらっているからね.安心なんだ」と治療が終わった中年の男性が言った.金属は一つも入っていないきれいな口の中だった. 歯科医のお手伝いさん的な存在である日本の歯科衛生士.スウェーデンのような風が吹くのはいつのことだろう.二つの国にもクリスマスがもうすぐ来る」 この記事から18年経って,たしかに日本も8020達成者は50%を超えた.驚くような事実である.しかし,と私は考えてしまう.あの日,アンナさんの診療室で会った,あの中年男性のきれいな歯と歯肉が日本人の目標だと思うのだ.上間京子のコラム①日本の8020,そのゆくえ

元のページ  ../index.html#6

このブックを見る