ザ・クインテッセンス 2019年2月号
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「う蝕は減っている」のイメージだけでいいのか?日本の未治療う蝕保有者4,000万人1.「う蝕は減った」だけでいいのか? 「う蝕は減った」というメッセージは,大学教育だけでなく厚生労働省や文部科学省の資料のなかにもたびたび記載されている.そのため多くの歯科医師が「う蝕は減った」というイメージをおもちだろう.しかし,このことは場合によっては正しくなく,状況認識や対策を誤らせる危険がある.この理由の概要は下記となる.・う蝕は世界でもっとも多い疾患である.・日本においても成人以降は3割以上の人が未処置う蝕を有し,世界での報告と同レベルの多さで,他の疾患よりも圧倒的に多い.・高齢者では,う蝕は「増加」している.・「健康格差」が存在するため,いまだにう蝕対策は重要である.・子どもの「平均」う蝕経験歯数は減少しているが,そもそも罹患する個人個人にとっては痛みや将来の歯の喪失リスクの増加を引き起こす深刻な疾患である. 本稿では,これらの解説とそこから考えられる必要な対策について紹介をしたい.2.う蝕は世界でもっとも多い疾患 世界でもっとも多い疾患とは何なのか? WHO(世界保健機関)と研究機関が約300の疾患を調べたGlobal burden of disease study(GBD study)が報告するもっとも有病率が高い疾患は永久歯の未処置う蝕であり,これは医科系のトップジャーナルの1つであるLancetや,歯科系のトップジャーナルであるJournal of Dental Researchで報告されている1,2.経年的にデータが更新されているGBD studyで不動のトップを維持する,世界でもっとも多い疾患が「う蝕」なのである.歯周病や乳歯のう蝕,歯の喪失もやはり多く,歯科疾患は有病率が高いことが大きな特徴なのである. そしてこの状況は日本でも同様であり,平成28年相田 潤Should We Keep Only the Image “Caries has been declined”?:40million Japanese has Untreated CariesJun Aidaキーワード:疾病負担,う蝕,GBD study,健康格差東北大学大学院歯学研究科口腔保健発育学講座国際歯科保健学分野連絡先:〒980‐8575 宮城県仙台市青葉区星陵町4‐1出典:厚生労働省 平成28年歯科疾患実態調査(年齢階級)(%)45.035.030.025.040.020.010.05.00.05~915~1920~2425~2930~3440~4445~4950~5455~5960~6465~6970~7475~7980~8485~35~3910~1415.0142the Quintessence. Vol.38 No.2/2019—0396

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