ザ・クインテッセンス 2019年3月号
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53the Quintessence. Vol.38 No.3/2019—0549「the Debut」症例:サマリー 患者は2006年10月,₆の自発痛を主訴に来院された当時58歳の女性で,咬合支持を失ったすれ違い咬合に対してインプラントを用い咬合再構成を行った症例である. 治療計画立案および最終補綴設計に関して,まずは患者の年齢,ライフステージを考慮した.医療面接により欠損に至った過去を紐解き,宮地の咬合三角や現在歯数のパーセンタイル曲線を用いて現在の欠損歯列のレベルとリスクを診断した.あわせて患者の将来の予後を推測し,起こりうる口腔内の変化をイメージしてみた.また,残存歯の配置が複合的すれ違いを呈しており,すれ違い咬合の最大の問題点である義歯の回転変位をどのように食い止め,顎堤の吸収やフラビーガム形成,鉤歯の動揺など,長期経過におけるトラブルをどのようにして回避するかを考えた. 実際の治療では,下顎両側の遊離端欠損部にインプラントを用い咬合支持を確立することで,上顎義歯の変位を最小限に抑えた.また,残存歯に対する歯周基本治療,歯内療法,支台歯形成,歯肉圧排,印象採得などの基本手技も的確に行い,プロビジョナルレストレーションを用いて咬合と歯周組織の安定を図ったのち,最終補綴へと移行した. 同じスタディーグループの先生の勧めで投稿させていただいた「New Essence:the Debut」.掲載当時(2010年5月号),筆者は37歳で,開業7年目であった.片田舎のかかりつけ歯科医という臨床スタイルでこのような全国誌に投稿できることの嬉しさ,その一方で査読委員に厳しい評価を受けるのではという不安を覚えたことを記憶している. 開業以来,そのときどきに自院で提供できる精一杯の治療を行ってきたつもりである.その臨床を誌面で客観的に評価されること,また,それが企画趣旨にある科学的根拠を基にした患者本位の医療,最小の侵襲で最大の効果を得るという考え方に則った治療であるのか,自身の臨床を見つめ直すよい機会にもなった. 実際,査読委員の先生にいただいたコメントは,より深く鋭い指摘で自身の浅学さを痛感させられるものであった.コメントにあった改善すべき点,今後の課題を何度も読み返し,それに関する書籍や文献を探し求めたこと,それ以降の臨床に対する大きなモチベーションをいただけたことも「the Debut」に投稿して得られたものであった. あれから9年,46歳となった筆者が当時の症例の経過を検証し,いま臨床について思い,考えることを述べさせていただきたい.「the Debut」掲載時を振り返って▲2010年5月号掲載「すれ違い咬合にインプラントを用いた咬合再構築症例」より.

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