ザ・クインテッセンス 2019年4月号
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GUEST EDITORIAL 平成31年2月19日に女優,堀ちえみさんの舌がん罹患が報道された.元アイドル,そしてそのカミングアウトが水泳の池江璃花子選手に続くものであったことが,その衝撃をいっそう大きなものにしたと考えられる. 報道を見聞きして,われわれ口腔外科医からは,2点のことが気になる.それは①舌がん(口腔がん)の認知度,②かかりつけ歯科医師の対応である.そしてこの衝撃は対岸の火事ではなく,すぐ目の前にある歯科事情として強く意識する必要がある.口腔がんは稀ではない! 現在では,「口腔がん」はめったに遭遇しない稀な疾患ではない.国立がん研究センターの統計発表からも,その罹患者数は40年前と比較して3倍以上に増加している. さらに,口腔がんが無症状期(がんでない病変)の粘膜疾患を経てがん化(多段階発がん機構)する特性を考慮し,潜在的悪性疾患も含めれば,この種の病変に遭遇する機会は一層増加する(図1). なぜなら,口腔がんの発症までには通常10年以上かかるといわれており,ほとんどの口腔がんは前がん病変などの病態を段階的に経てから発症するからである.口腔がんの第一発見者は誰だ? さて,これらの粘膜疾患に対して,誰が早期発見の役割を担うかといえば,口腔がんの第一発見者は,開業歯科医院の歯科医師と歯科衛生士となる.「めったに遭遇しない」は,一般開業歯科医師が口腔がんを疑う目をもっているか否かの相違である. つまり,日常,患者さんの口腔内を観察している歯科医師や歯科衛生士が,つねに口腔がんを疑う目をもつことができ,かつ,「あれっ? これはおかしい!」と思った際に専門医に気軽に相談できる仕組みが整えば,現在失われている多くの命を救うことができることになる. 全国に約7万軒近くある歯科医院,約10万人の歯科医師と実働約11万人の歯科衛生士という一口腔単位を管口腔がんから国民を救う!そのゲートキーパーとしての歯科医師の役割口腔内データ多段階発がん機構柴原孝彦東京歯科大学口腔顎顔面外科学教室連絡先:〒101‐0061 東京都千代田区神田三崎町2‐9‐18キーワード:口腔がん,口腔がんの予防,口腔がん検診,口腔内診査図1 多段階発がん機構.口腔は,さまざまな粘膜疾患が発症する.多くの場合は,口腔潜在的悪性疾患を経てがん化(70~90%)する.喫煙,飲酒,機械的刺激,感染など正常細胞がん細胞前がん(異型細胞)37the Quintessence. Vol.38 No.4/2019—0751

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