ザ・クインテッセンス 2019年6月号
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33the Quintessence. Vol.38 No.6/2019—1187収を引き起こすような侵襲や,炎症や歯肉肥大を避けるために行うものである. 生物学的幅径のコンセプトはGargiuloら2の屍体を用いた組織学的研究から派生したもので,ヒトにおける歯槽骨頂から1.07mmの結合組織付着と0.97mmの上皮性付着の平均距離を測定したもので,19年ぶりにAAP/EFPのワークショップによって改定された2018年の歯周病新分類では“supracrestal tissue attachment”(歯槽骨頂上の付着)と新しい用語に置き換えられている.しかし,この“supracrestal tissue attachment”の正式な日本語訳が日本歯周病学会によって発表されていないこと,臨床的には生物学的幅径のほうが読者にとって馴染みがあるので,“生物学的幅径”(以下,BWと略)と表記する. これらの数値は平均合計2.04mmに集約される.最近のシステマティックレビュー3では,個体差,個人差はあるものの,その値は2.15~2.30mmと示されていて,従来の認識を裏づけるものとなった.修復治療,補綴リハビリテーションにおいて,健康な周囲軟組織を維持するためには安定したBWは必要なステップと考えられる.前歯部における審美を目的とした歯冠長延長術の確定的手法はいまだに議論の的になっているようで,PubMed論文検索で“esthetic crown lengthening(審美的歯冠長延長術)”と検索すると320文献がヒットする(2019年3月26日現在)が,システマティックレビューは含まれずに,いくつかのケースレポート4~6,ケースシリーズ7~12,clinical control trial(比較臨床試験)13があるのみである. 審美的歯冠長延長術は,その処置後の補綴修復の有無にかかわらず,一般的に前歯部領域に対して行う歯冠長延長術の総称であるが,本稿では補綴修復をともなわない審美的歯冠長延長術にフォーカスし,既知のエビデンスと実症例を通じて審美的歯冠長延長術におけるケースマネジメントを概説する(図1).受動的萌出不全Altered PassiveEruption:APE審美的歯冠長延長術今回はココ!補綴修復をともなわない場合過剰な歯肉露出(ガミースマイル)補綴修復をともなう場合最終補綴装置連続した複数歯単独歯上顎骨垂直的過成長短い/過剰に動く唇急速矯正挺出/brectomyもし歯肉マージンが歯冠側に移動する場合は部分的な外科処置をともなうAPFと骨外科をともなう歯冠長延長術外科矯正手術+矯正治療外科的リップリポジションニング歯冠長の延長が必要な歯図1 審美領域における歯冠長延長術を必要とする状況のディシジョンツリー(文献14より改変引用).

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