ザ・クインテッセンス 2019年7月号
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35the Quintessence. Vol.38 No.7/2019—13991.アブフラクション:肯定派vs否定派 2018年に歯科界に起きた大きな変化の1つが,約20年ぶりに歯周疾患の分類がアップデートされたことである.これら歯周疾患とインプラント周囲疾患の新分類は,欧米の2大歯周病学会であるEFP(European Fedration of Periodontology)とAAP(American Academy of Periodontology)が合同で行ったWorld Workshopのコンセンサスの一環として発表された.大きな注目を集めた新分類の論文が掲載された号に咬合性外傷を扱ったレビューも発表され,そこでアブフラクションが俎上に上がっている1.その結論は,「アブフラクションは生体力学に基づく理論的コンセプトで,臨床的エビデンスによって支持されていない」であった.この結論は,もしかすると多くの読者にとっては驚くべきものかもしれない.しかし,これが大きな注目を集めている欧米のメジャーな学術団体のコンセンサスである. アブフラクションは,咬合荷重によって歯頸部に発生する応力が原因で起きると考えられている歯頸部歯質の喪失であり2,NCCLの主要な要因の1つに挙げられている3.「咬耗を有する歯にみられる鋭いくさび状を呈するNCCL」(図A)を,アブフラクションと診断する読者は多いのではないだろうか? NCCLはう蝕以外の原因によって生じた歯頸部歯質の欠損で,アブフラクション以外にも摩耗と酸蝕が関与した多因子性疾患と考えられている3. アブフラクションが広く知られるようになったのは1990年代半ば以降で,摩耗と酸蝕に比較して歴史は浅い.Tooth wearは歯面全面における非う蝕性の歯質喪失である.Tooth wearの原因は,酸蝕,摩耗,咬耗と考えられており,酸蝕と摩耗の要因はtooth wearとNCCLで共通である4,5.歯質喪失の位置が歯頸部か咬合面かで異なるものの,アブフラクションと咬耗に関与する要因は共通である(表1)4.う蝕,酸蝕,摩耗,咬耗は攻撃因子が作用する部位と歯質が喪失する部位が同一であるのに対して,アブフラクションではそれらが異なっている点が大きな特徴である(図1).つまり,アブフラクションは原因と結果の部位が離れているという点で,歯の硬組織疾患のなかで特異な存在である.アブフラクションによってNCCLは他の歯面におけるtooth wearと一線を画することになる. 実は,学術的にはアブフラクションに関する否定的な評価は2000年代後半から増え続けており,EFP/AAPコンセンサスの結論は決して目新しいものではない6〜13.このように,学術的には「アブフラクションは実証できていない仮説である」という評価が主流である.その一方で,アブフラクショ表1 NCCLに関与すると考えられている要因(文献4より改変引用).アブフラクション(ストレス)酸蝕(バイオコロージョン)内因性内因性(酸) ・パラファンクション:ブラキシズム,クレンチング ・プラーク中で酸を産生する細菌 ・咬合:早期接触,側方荷重 ・歯肉溝滲出液 ・嚥下 ・GERD患者での胃酸,過食症 ・硬く噛みごたえのある食品の咀嚼外因性外因性 ・酸性の柑橘系果物,ジュース,飲料の摂取 ・習慣:鉛筆,パイプ,爪等を咬む癖 ・酸性の産業性ガスに対する職業上での曝露やその他環境的要因 ・職業:釘を咬む,管楽器の演奏 ・歯科用装置:矯正装置,クラスプ,スプリントタンパク質分解摩耗(摩擦) ・酵素溶解(う蝕)外因性 ・タンパク質分解酵素(ペプシン,トリプシン) ・口腔清掃:過度なブラッシング,高研磨性の歯磨剤 ・歯肉溝滲出液 ・浸食(液体の流れ)電気化学的 ・歯科用装置:メタルクラスプ他 ・象牙質におけるピエゾ効果

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