ザ・クインテッセンス 2019年7月号
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87the Quintessence. Vol.38 No.7/2019—1451「the Debut」掲載症例:サマリー 多数の骨縁下欠損を有する重度歯周炎患者に対して再生療法および切除療法によって対応した症例である.患者は59歳の女性で非喫煙者.下顎左側臼歯部歯肉の義歯沈下による疼痛を主訴に来院した.既往歴に特記事項はない.10年以上前に部分的に歯冠修復を行い,金属床義歯にて欠損補綴を行った.プラークコントロールは不良.上顎前歯部に著しい歯間離開が認められ,上顎前歯と左側臼歯部で大きな歯の動揺を認めた(図1).プロービング値はほとんどの歯で6mm以上,エックス線所見ではすべての歯に垂直性骨欠損が認められた(図2).慢性歯周炎に,部分床義歯の装着や,咬合性外傷が加わり,多くの骨縁下欠損を形成したことが考えられた.広汎型重度慢性歯周炎および咬合性外傷と診断した. 歯周基本治療後,保存不可能な歯の抜去を行い,その後,残存歯についてプロビジョナルレストレーションを利用した暫間固定を行った.すべての残存歯を上下左右4ブロックに分け,エムドゲイン(EMD)と自家骨を用いて再生療法を行った.術後約1年経過した後再評価を行い,残存した歯周ポケットと骨レベルの段差を改善し,補綴装置周囲に十分な付着歯肉を獲得するため,上下左右4ブロックに分けて骨外科処置と遊離歯肉移植を行った.上下顎 JIADS Study Club Osaka(JSCO)に所属していた筆者は,当時,ジアズ総会や日本臨床歯周病学会年次大会などに症例報告をする機会をいただいていて,その流れでJSCOでご指導いただいている先生の勧めで「New Essence:the Debut」に投稿させていただき,2009年8月号に掲載された.JIADSコンセプトに基づいて全顎的な歯周治療を行い,インプラント治療を含む全顎的な咬合再構成を行った症例で,当時の筆者は自信をもって投稿させていただいたことを記憶している. 投稿した症例は,2000年前半に受講したジアズのペリオコースや補綴コースなどで得られた知識や技術ばかりではなく,JSCOに参加して学んだもの,貴和会歯科診療所に見学に行って教わったことなどを可能な限り遵守し,1つのコンセプトに向かって治療計画を立て,実践していったなかでの最初の大がかりな症例の1つであった.同じスタディグループでは高い評価を受けていた症例も,査読委員の先生方からは改善すべき点や今後の課題などを多くご指摘いただき,当時の筆者はそれに多少の違和感を覚えつつも,同じ論文を引用するにもさまざまな考え方があることや資料採得が不十分であることなども知り,大きく勉強する機会となった. 掲載から10年の年月が経ち,当時と変わらないコンセプトに基づいた歯周治療を継続して行っているが,それだけが歯周治療に必要なものではないことも多くの臨床例を通して学んだ.また,逆にコンセプトに基づいて歯周治療を行うことで,重度歯周炎患者にインプラント治療を行ってもインプラント周囲炎をほとんど経験することなく,安定した治療結果が得られることも実感した. 今回,当時の症例を振り返るとともに,インプラント周囲炎を発症させないための重度歯周炎患者に対するインプラント治療についても臨床例を交えて解説したい.「the Debut」掲載時を振り返って▲2009年8月号掲載「多数の骨縁下欠損を有する重度歯周病患者に再生療法および切除療法で対応した症例」より.

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