ザ・クインテッセンス 2019年7月号
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正中矢状面を基準とした歯科臨床前編:生体における正中の特定とその臨床的意義特別企画112the Quintessence. Vol.38 No.7/2019—1476Akira Yoshino, Hiroshi Funaki, Kazushige Osawa, Haruhiko AbeClinical Dental Practice Based on the Midsagittal PlanePart1. Identiation and Clinical Signicance of the Face Midlineキーワード:正中矢状面,正中線,フェイスボウトランスファー*東京都開業 吉野デンタルクリニック*1東京都開業 日比谷歯科医院*2茨城県開業 大澤一茂歯科医院*3宮城県開業 阿部晴彦歯科診療所*代表連絡先:〒114‐0013 東京都北区東田端1‐13‐10 ツインビル田端A棟2F吉野 晃*/船木 弘*1/大澤一茂*2/阿部晴彦*3はじめに─デジタル時代に正中を考察する意義─ 「正中線を合わせる」「正中がずれている」「正中を基準にして左右対称に排列」…….日常臨床でわれわれは,正中を意識しない日はないのではないか.数ある基準線のなかでも,左右対称性を求める歯科においてもっとも重要視されるのが正中であることは間違いない.では,生体にとって正中および正中矢状面とはいったいどのように定義付けられているのであろうか? Millerは「人中が正中と一致するものは71%」1とし,Kokichは「キュービット・ボウがもっとも信頼性の高い正中の指標」2また,Beyerらは「審美的に許容できる顔貌正中と前歯正中の差は2mm」3と報告している(図1).しかし,これらは前歯部審美修復での科学的根拠には違いないが,けっして生体の正中そのものを定義付けているわけではない.2016年の歯科疾患実態調査4にも「正中のずれ」を診査する項目があるものの,これは上下前歯部のずれをカウントするもので解剖学的正中からの逸脱を計測するものではない(図2). 近年のデジタル技術の進化は目覚ましく,あくまでも仮想であった空間は,現実の臨床を左右するまでになった.本来は二次元のセファロ分析のポイントも,CTデジタルデータと合致できるまでになり,三次元的に解析することで厳格な正中矢状面を規定していける可能性も広がっている5(図3).しかし,アナログ,デジタルを問わず,計測される側の生体が変わったわけではない. そこで本稿では,基準としている正中および正中矢状面が学問的にどのように定義付けられているかをあらためて多角的に検証すると同時に,われわれが理論的根本としてきた正中矢状面による咬合器付着様式をデジタルという視点から考察したい.1.正中矢状面の臨床的意義 有歯顎,無歯顎を問わず,左右対称で同高な咬合平面は審美性だけではなく運動学的な観点からも重

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