ザ・クインテッセンス 2019年9月号
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81the Quintessence. Vol.38 No.9/2019—1897 前述した咬合調整にも限界はある.したがって,時には補綴装置の脱離や破壊を待つのではなく,戦略的に治療再介入に踏み込むことも重要なのだ. 口腔内に装着される補綴装置,とくに臼歯部は生体においてもっとも過酷な環境に晒されており,永久不変などあり得ないことをわれわれは認めなくてはならない. そして,もっとも悲劇的なことは,補綴装置の内部にある支台歯そのものの破断,崩壊である.その悲劇を回避するためにも,補綴的再介入を考慮した補綴デザイン(仮着やダブルクラウンの使用)なども検討し,柔軟に対応する具体策も示さなくてはならない. “上医,未病私癒す”*という格言があるが,歯や補綴装置に代謝はないためその格言は該当しない.歯,歯周組織,筋,顎関節を守るために補綴装置を交換することはけっして敗北ではなく,治すべきときに直すものなのだ. 上記の4項目に共通する Key Word は“咬合”である.そして,その“咬合”を読み解き,つくりあげ,管理することができる学問は“矯正学”と“補綴学”である. 現代の“矯正医”と“補綴医”の間には残念ながら境界線があり,互いにその発展を妨げてしまっているようなきらいがある. “Dentistry is Occlusion”という言葉が示すように,“咬合”は歯学の集大成でなくてはならない.そのためにも,補綴医が矯正学を学び,矯正医が補綴学を熟知することが必要なのだ . そして,“咬合”を語ることのできる“矯正学”と“補綴学”が今こそ手をつなぎ,双方が融合することで初めて近未来歯科医学に革新としての“咬合学” をもたらせると筆者は信じている.*現存する中国最古の医学書と呼ばれている『黄帝内経』に,「上医治未病,中医治欲病,下医治已病」という言葉がある.もっとも最良の医療は,病による生体組織の破綻や異常を来す前の予防にあるという格言.予防医学の重要性をうたったものではあるが,治療技術を軽視したり否定するものではない.4.戦略的な治療再介入補綴と矯正の融合

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