ザ・クインテッセンス 2019年9月号
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85the Quintessence. Vol.38 No.9/2019—1901「the Debut」掲載症例のサマリー: 症例1初診日:2003年8月19日年齢・性別:8歳9か月,女児.既往歴:とくになし.主訴:歯並びを改善してほしい. 患者は2003年8月,歯列の不正を心配する母親に連れられて来院した.口腔内の清掃状態は非常に良く,とても管理が行き届いていた.まだ小学3年生ながら本人の理解度,取り組みたいという気持ちも強く,実際治療に対して前向きであった.このことはとても重要であり,小児期からの矯正歯科治療を行ううえでとても大事なことである. 診査の結果,上下歯列とも狭窄しており,とくに下顎臼歯部の頬舌的な直立が肝要と考えた1.また,萌出スペースの不足による歯列不正が認められた.治療計画として,萌出スペースを獲得すべく,上下顎ともに床タイプの拡大装置を用いて歯列弓を拡大し(Ⅰ期治療),その後,後継永久歯の萌出を待って順次ブラケットを歯面に接着し,マルチブラケット法にて歯のポジションを確立する(Ⅱ期治療)こととした. 実際の治療は,治療計画どおりに進行し,12歳0か月で動的治療を終了した.このとき,上顎両側の第二大臼歯は萌出途中であったが,問題はないと判断していた.動的治療終了後に保定装置は使用していない.なぜなら,この年齢での何らかの保定装置使用は,その後の顎口腔系の発育を妨げる可能性をもつためである. 2008年3月号に筆者の「the Debut」が掲載されてから,早や11年の歳月が経っていることに驚くとともに,タイムスリップしたかのように執筆した当時の記憶が甦る.今回このような機会をいただいて,症例を振り返る良い機会となり,感謝を申し上げたい. そして当時,査読委員の先生方の温かくも含蓄に富むアドバイスが,筆者のその後の臨床に良い影響を与えていたただいたと感謝している.そういったことを含めて,当時を振り返りつつ,今まで培ってきたものも含めてお伝えできれば幸いである. 「the Debut」掲載内容は早い時期から取り組む矯正歯科治療であった.筆者は臨床に矯正歯科治療を取り入れており,小児から成人までを対象としている.日々の臨床のなかで,矯正歯科治療を学ぶことで得られた知識によって,補綴や咬合,歯周病,外科処置といったほかの治療がより理解しやすく,また視点を変えて取り組めるようになり,とても良いことだと感じている.多角的視点から取り組む矯正歯科治療がモットーである.「the Debut」掲載時を振り返って▲2008年3月号掲載「良好な顎口腔系を早期に確立するための取り組み」より.

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